群青の空に舞う蝶
□閑話其ノ一
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「ただいま戻りました」
数日後に控える後藤さんと武市くんとの会合に向けての打ち合わせを無事に終えて、安堵しながら藩邸に戻る。
遺恨交じりの会合だけに多少心配もあるが、坂本君のおかげで滞りなく進めそうだ。
文を書かなくてはと思案しながら廊下を歩いていくと
「もう一回だ!!」
「何度でも受けてたちますよ」
と賑やかな声がしてきて。
何事かと声のする部屋に向かい様子を伺う。
部屋の真ん中で碁盤を挟んで晋作と千夏さんが向かい合って座っていた。
「何をしているんだい?」
「あっ、桂さんお帰りなさい!」
千夏さんがニコリと笑いながら言うのに対して、晋作は顎に指をあてて碁盤を眉間にシワをよせて見つめていた。
碁盤の上には白黒の碁石が乗っている。
「囲碁をしていたのかい?」
そう言うと千夏さんはフフフと笑いながら、
「オセロをしていたんです」
と言う。
オセロ?と聞き返すと
「持ち石の色を決めて、同じ色で挟んだら間の石を裏返せるんです」
こんな風に、と千夏さんが白い石を置くとみるみるうちに黒い石を白い石に裏返していく。
「ああっ、千夏!卑怯だぞ!」
晋作の持ち石の色は黒なのか、どんどん白い石に変えられていく様子に頭をガシガシと掻く。
碁盤の上に置かれた碁石は明らかに白色が多くて、黒色はわずかだ。
「もう、何度も言ってるじゃないですか、隅をとらせちゃ駄目だって」
「う…、わかっている!お前中々の策士だな!もう一回だ!!!」
「策士なんて大層なもんじゃないですよ。単に高杉さんが弱いだけです」
ギャイギャイと言い合いながら遊ぶ二人に微笑みながらそっとその場を離れる。
「まだまだ千夏さんには用心すべきかもしれないけど…」
それでも笑いあう二人を見て私も久し振りに穏やかな気持ちになれた。
→義を見て偽さざるは勇無きなり