群青の空に舞う蝶
□揺れる想い
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「私…晋作さんに八つ当たりみたいな事してしまって…」
小さな肩を微かに震わせ、赤く充血した瞳にまた涙がみるみるうちに溜まっていく。
この涙が高杉さんを想っての涙だと理解したワシの胸に鋭い痛みが走る。
何があったのか今すぐ聞き出したい衝動に駆られるが、背中を撫でてやりながら次の言葉をジッと待っていると千夏の唇に赤いものが滲んでいるのに気付いた。
「千夏。こっちを見るんじゃ」
肩が触れる距離でワシを見上げる千夏は大きな瞳を涙で濡らし真っ直ぐにワシを見つめる。
その美しい瞳の眼差しに胸が高鳴り、一瞬時間が止まったようで…。
気を取り直して千夏の唇を見ると赤く滲んでいたのは血だった。
「唇に傷が…!どうしたんじゃ!」
ふっくらと形のいい唇にできた傷が痛々しい。
「あ…強く唇を噛んじゃったから…」
千夏が傷に指で触れようとしてワシは慌ててその手を掴んだ。
「触っちゃいかん!」
さらに近付いた距離でワシと千夏の視線が交わる。
「………」
「………」
先程まで笑い声をあげて遊んでいた子どもはいつの間にかいなくなり、さらさらと小川が流れる音だけが辺りを包んでいて。
涙のせいとはいえ潤んだ瞳に見つめられワシは一時も視線を逸らすことが出来ない。
その柔らかそうな唇に口付けをしたい衝動に襲われ、握った手を少し引き寄せると同時に千夏に吸い寄せられるように顔が近づく。