心騒ぐ小説
□勉強会
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「海堂…如何して逃げるんだ?」
「………」
覗きこまれた乾の視線から逃れるように、顔を背けて乾からわずかに離れる海堂。
〜勉強会〜
今日は日曜日で天気もよく、ランニングすると、気持ちいいだろうな……と思う。
けれど現実は乾先輩宅で…先輩の部屋で二人座卓に向かい、並んで座って机に並べられた教科書の文章を目で追っている。
―――疲れる。
この状況に。嫌な緊張感がある。
――どうしよう。
そこで冒頭の台詞。
手の動きが止まっていた海堂に、乾が「あぁ。ここは……」と、わずかにあった二人の間の距離を詰めてしまったからだ。
薄着だからダイレクトに相手の体温が伝わってきてドキッとした為だ。
「ふぅ〜。」
ビクッと海堂の体が震えた。乾のため息が海堂を更に追い込もうとする。
「とりあえず今は聞きなさい」
先生口調で乾は海堂の頭をグッと引き寄せて視線を教科書に無理やり戻す。
「っわ」
カ〜っと海堂の顔が……耳までもが赤く染まった。
「集中出来ない?」
「…えっ?あっいえ……」
紅色に高揚した頬が海堂の言葉を否定している。
「可愛い…」
「は…?あわ…ッ」
ドサッと言う音とともに海堂は乾に押し倒された。
ドサッという音のわりに海堂の背に痛みはなかった。
乾がサッと素早くクッションを海堂の背に敷いたからだ。
「せ……せんぱい?」
海堂が、戸惑いの目で乾を見つめると乾はにこっと微笑んだ。
「可愛いから休憩にしてあげよう」
そう言って海堂が次の言葉を発する前に乾は海堂の唇を塞いだ。
「…ふっ……ぁん…ん……せ…ぱっ」
口付けが深くなり、海堂はどんどん思考が鈍くなっていく。
それでも唇が離れる瞬間瞬間に海堂は言葉を漏らす。
その様子を目を瞑らずに覗き見していた乾は笑みを抑えきれない。
「なんだ?」
たっぷりと楽しんだ乾は唇を離し、わざとらしく首をかしげて海堂に優しく問う。
「わ…ってる…んでしょ…う?」
乾を見つめる海堂の目が「意地悪」と言っている。
しかもキスで乱れきった呼吸と髪はやたらと色っぽい。
「もちろん解ってるよ」
くすくす笑う乾に海堂の顔が歪む。
「俺に……こういうことされる様子を想像しちゃって逃げたんだよね」
「や……っめて…くださ…い」
耳元や、首に、ちゅっと音とともにキスをされ、海堂はそれを避けるため乾の胸を押し上げようとするが…腕に力が入らない。
さきほどのキスの影響ももちろんあるが、乾の(魔の)手が、下半身へと伸びていたからだ。
それだけでなく、胸元までシャツを上げられてそこにも口付けをされる。
…というか、舐められ……。
続けられる下半身への刺激とで腰の辺りが重くなってくる。
――― マズイ…。
海堂はそう思って、快感に流されそうになっている身体に鞭を打ち、早く乾の身体の下から逃げようと必死になる。
「ん?…いや?」
乾はすっと行為を中断して顔を上げて海堂にそんなことを訊いてきた。
「…え…?」
海堂は逃げようとしていたものの、心の底では「先輩が解放してくれるわけがない」と思っていたものだからちょっと驚く。
「じゃ、休憩はやめにして、続きやろうか」
中断を中止に変えた乾は海堂の衣服を元に戻し、無表情ですくっと立ち上がる。
それは、まるで「気分を害した」と言われたようで海堂は、どうすればよいか判らなくなってしまった。
「どうした?起き上がれないのか?」
なかなか身体を起こそうとしない海堂を見て、乾はくすくす笑った。
海堂はムッと乾を睨みつけ、床に肘をついて身体を起こした後、勢いよく立ち上がって乾を射程距離にとらえる。