心騒ぐ小説
□相手の気持ちを探ろう!
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「先輩。これ…」
「ん?――クマのぬいぐるみ?」
相手の気持ちを探ろう! (手塚・リョ―マ編 リョ―マから)
まだ太陽の高い時間。
手塚家の、手塚の部屋で起きた(手塚にとっては)大事件。
越前が何の予告もなしに手塚を訪ねてきたのだ。
これだけでも(手塚にしてみれば)事件なのだが、「大」が付くほどの事件はこれが総てではなかった。
「越前…これはいったい……」
手塚の前に差し出された可愛らしいクマのぬいぐるみ。
その首には赤いリボンが巻かれている。
そして固まる手塚。
クマを手にしたまま首をかしげる。
部屋に入り、二人が腰を落ち着けたところいきなり越前が持っていた紙袋を手塚に渡したのだ。
何も言わず。
手塚はそれを不思議に思いつつも袋の中を覗き、中のものを出してみると…出てきたのは上記のもの。
「――いるの?いらないの?」
なぜ越前が自分にぬいぐるみをプレゼントしてきたのかが手塚には判らなかった。
普通のプレゼントもされたことがないのに、初めて貰ったものが越前らしからぬものだったのだからそれは当たり前の反応だろう。
だから訊いてみたのに、越前はそれに答えてくれなかった。
「いや、…貰う。ありがとうな」
没収されてしまうのは嫌だったので、手塚は理由はともかくそのクマの人形を貰うことにし、人形を自分の正面に置いた。
「……ふ〜ん。」
「な…なんだっ?」
その様子をジッと見ていた越前は、手塚が人形を置いたのを見届けると納得するように…やっぱりというように…笑い、手塚は何だか胸騒ぎがした。
しかも、越前はまた手塚の問いには答えずに静かにポケットから携帯を取り出し、それを耳に当て…すぐに切った。
「…携帯、持ってたか?」
「俺のじゃないっすよ」
手塚の知る限り、越前は携帯を所持することを嫌っていた。
だから、その手に持つどこかで見たことのあるような携帯の機種と越前の行動にドキドキしてきた。
嫌な「ドキドキ」だ
「それなら誰の……」
手塚が、携帯の持ち主をつきとめようと越前に追求しかけた時、玄関の方から声がした。
今、手塚の家には手塚と、越前しかいないのに。
しかも、騒がしく、聞き覚えのある声だった。
その声はすぐに近くなり、手塚が立ち上がる前に部屋の戸が開いた。
「勝手に上がっちゃったけど…いいよね」
「不二……」
不法侵入者第一号。
不二周助。
「手塚っ。おっ邪魔するよ〜ん」
「菊丸…」
不法侵入者第二号。
菊丸英二。
「やあ」
「お前もか……」
不法侵入者第三号。
乾貞治。
「何なんだ、お前たち…」
自分の勘が当たったことを喜ぶところなのか…、手塚はぐったりとしている。
「越前君から合図があったから、もういいかなって」
「合図?」
「そう。……あ〜、やっぱりそこに置いたんだ」
不二の言う、越前からの合図は…たぶん先ほどの携帯からのワンコールのことだと手塚は予想した。
だが、なんの為に…かは、解らず首をひねる。
不二は、例のクマのぬいぐるみに視線を落とすとニッと笑みを浮かべた。
「やっぱし、手塚は賭けの対象にはむかにゃいね〜」
「あぁ、全員の予想通りだ」
「だったらこんなことさせないで欲しいっすよ」
「まぁ、いいじゃない。確認だよ、確認」
「……おい、何の話だ?」
手塚を置き去りにして進められる話に、手塚は何とか割り込んでストップをかける。