愛話

□独白
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「序章」





小谷信子を人気者にする。
ゲームの展開としては面白いことになった。


「バイバイセコー!!」
「バイバイセコーッ」
「修二っ、明日…忘れんなよ〜」
「え?明日って…なんかあったっけ……って覚えてるよ!じゃなっ」

 ――軽いな。

“桐谷修二”でいることなんて。

壁を作っているわけじゃない。
“桐谷修二”というキャラクターになりきってるだけ。

遊園地で風船を配ってるウサギと似て非なるもの。
あんな浅いキャラじゃ“学校”という敵の前じゃすぐ潰される。
ウサギの頭を取られただけでウサギからヒトへと戻ってしまう程度の着ぐるみじゃ。

「あ、いたいた。修二っ」
「おう、まり子」

ノリのいいふりしとけば、学年一の子と常に一緒にいることだって出来る。
たとえそれが、ウザイって思うときでも…。

「ね、明日さ…」
「ごめん、明日は用があるから無理」
「まだ何にも言って無いじゃん」
「そうだった(笑)」
「じゃあ…明後日は?」

女って、何で明日がダメなら明後日…って、大して日も空けずに訊いてくるんだ…?

「明後日…明後日……」
「…空いてる?」
「もち!!」
「それじゃ、詳しいことは明日ね」
「オッケ!部活頑張れよっ」
「ありがと」

面倒になったら、ドタキャンでもすればいい。
それでも、弁当食って「美味い!!」って言っときゃいい。

相手に合わせるわけじゃない。そうなるように道を作って誘導するだけだ。
その道に相手が落ちて、たまに俺も落ちたふりをする。
で、互いに突付きあう。

ただそれだけ。

そうすれば、学校が好物としている“平和”の出来上がり。

“学校”にいるってそんなことじゃん?

うちでは、ゴムでちょんまげ作ってても外出れば「修二君」
弟と食べ物取り合ったって学校では「修二」

クールでノリのいい人気者の“桐谷修二”はそうやって続いていく。



草野彰の存在が、時たまその境目を薄くしてしまうが、それくらい着ぐるみ着てる俺には問題ない。


ノブタだって、俺に近いところくらいはいけるはずだ。

俺の言うとおりにしてれば。


いつものように他のやつらに気づかれないように屋上で三人プロデュース計画を話し合っていた。

「こんな感じで、ノブタもキャラになればいいんだよ」
「キャラ…」
「今の世の中、キャラが重要なんだよ。分かるだろ?人気者ってのはキャラがしっかりしてるんだ」

ノブタの反応はいまいち判りづらいが、理解はしているようだ。



「キャラ…ねー」
「…なんだよ」

俺の話を横で聞いていた草野がつぶやく。

「ねーぇ。修二君。ノブタはキャラじゃないのよ〜」
「はぁ?」
「ノブタは、“小谷信子”で人気者になるのー」
「だからそう言ってんじゃん…」

ほんと、コイツの話は……。

「な〜んか、違うんだーっちゃ」
「なにが“だっちゃ”だよ」

肩に手をかける草野をはらったところで

「と、とにかく…っ」

ノブタがあのぼぞぼそっとした声を発した。

「に…人気者に…なる。の…の、ノブタパワーで」
「そっか、ノブタパワーね。ノブタパワーがあったなり〜」
「だから、語尾がおかしい。ってか、何だよ、ノブタパワーって」
「いいから、いいから。修二君もご一緒に!!」
「ちょっ、なにす…」

草野が俺の背後に回って俺の腕を掴んだ。

「はい、叫ぶ!」


「「ノブタパワーッ注入!!」」

「…ちょー、修二なんで言わないの〜」
「言うわけないだろ。ってか、やらせんなよ」




ここからは、草野彰と小谷信子がキーとなる。

俺の中で崩れ始めたもの…動き出したものがある。

気づかないふりの出来ないもの。


新しい“桐谷修二”が出来るのか、着ぐるみ修二君が脱がされてしまうことになるのか。

後者は絶対ありえねー。
ありえねーんだ。



END

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