Inferno
□愛の挨拶。
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AとTとCとGとで、想いを綴る。
【ミトコンドリア・ラブ】
ひらひらと騒ぐ光。
なんとなく白い春風。
うすく薫る木々の葉ずれ。
昼休みの中庭。
「すまない、待たせてしまった様だな」
待ち人、来たる。
「平気、そんなに待ってないから」
そうか、と返す乾はどうやら此処まで走ってきてくれた様で、真っ白なシャツが少しだけ乱れていた。
「というより、ちゃんと来てくれたのが嬉しい」
「来ない訳ないだろう、こんな興味深い手紙をもらって」
そう言って彼が取り出したのは、白いルーズリーフの切れ端。
私が彼に渡したもの。
書かれているのは、ただAとTとCとG。
「もしかして、すぐ分かっちゃった?」
「いや。トリプレットコードだということは直ぐに解ったが、わざとアンチセンスで書いてあることには暫く気づけなかったよ」
何だ。
私は考えるのに一週間も費やしたのに。
そう不満には思ったけれど、口には出さず。
すると乾は軽く笑って、答え合わせをしてもいいかな、と尋ねてきた。
私は良いよと告げる。
カサリ、と紙が咲いた。
『AAG CGA ATG AGC (U) TTC TAT CTG CTC AGA (U) TAG TCG 』
Uで始まるアミノ酸がなかったのは残念だったな、という前置きを置いてから、乾は答えた。
「解読の結果、この紙に書かれている言葉は『好きです』。…間違いないか?」
静かな問いにひとつ頷く。
彼の声は続く。
「それにしても、驚いたな。まさか告白に遺伝暗号文を応用してくるとは。こんなに難解なラブレターをもらったのは、世界中探しても俺だけである確率実に89%だ」
肩を竦め、おどける乾にそっけなく返す。
「DNAレベルで好きってことよ」
「…甘いな」
返事だ、と言って渡された同じくルーズリーフの切れ端には、同様にある一つの秩序を守り並ぶAとTとCとG。
「どうかな?こっちにはOもなくて少々不格好になってしまったが」
そこに綴られていたのは、間違いなく地球上で最もメジャーな愛の文句。
思わず苦笑してから顔を上げると、珍しく逆光になっていない眼鏡の奥にある瞳は穏やかに微笑(わら)っていた。
乾は言う。
「俺は、DNAレベルで愛している」
― END ―
『』内のコードは、
セントラルドグマに従って頂ければ
本当に『好きです』になります(多分)
開始コドンと終止コドンは据え置きで。
詳細はこちら。
題は言わずもがなパロディです(笑)
2006/02/22