流星クラウン
□紡ぐ周回軌道
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「じゃ、ごちそうさま」
ごちそうさま?
と、皆からそんな目が集まる。
そういやいただきますのときも不思議そうな顔してたっけ。
「いただきます、と、ごちそうさま、は感謝の言葉なんだ。私たちが食べるものを育んでくれた全てのものにありがとう、って」
なんとなく理解してくれたらしく、皆同じように手を合わせた。
片付けしたらここの説明して…
外に出なきゃ。
外に…
「とりあえずここ片付けるんで、それ終わったら色々説明するよ」
「うむ! っお?」
「!!」
「おっと、もう旦那ぁ、気を付けてよね」
勢いよく返事をした真田が椅子から落ちそうになって、手を出そうとして引っ込めた。
一瞬感じた激しい圧迫感がそれを許さなかったから。
その殺気を放ったのはおそらく猿飛。
私が触れるのが嫌だったのだろう、素人の私にもわかるほどの凄まじい殺気だった。
痛い、と感じるほどの。
やはり猿飛は忍なのだ、先程の小さな信用のようなものはまるきりの嘘。
己の主を守ることが彼の役目なのだから。
朝食をすんなり口に運んだのもあれは毒味役を買って出たにすぎないんだろう。
私に対して警戒を解くなんてまずありえない、ちゃんと理解しなくちゃ。
「ごめんねぇ、うちの旦那そそっかしくて。…でもあんたは気にしなくていいから」
「…わかってるよ」
ほら、ね。
これは拒絶。
笑顔だけど、笑ってない。
でも仕方ない。
不安なんだから。
割り切らなきゃ彼らとはやっていけない。
「じゃ、猿飛さんは真田さんよろしく。私は片付けるから」
「はいはーい、っと」
じゃ、やりますかね。
がちゃがちゃと皿を重ねていると、大谷がこちらを見つめていた。
…何だろう。
「何だ?」
「いや、われに出来ることはないかと思うてな」
…驚いた。
そんなことを言う武将がいたとは。
なんて優しいんだ。
「そうだな…、運ぶの手伝ってくれるか?」
「あいわかった」
コップを指してそう言い、自分は椀を持つと、キッチンへと足を向ける。
流しへ椀を置いた私の隣にコップが置かれた。
ありがとう、と言いかけて私は目を見開いた。
大谷、じゃない。
もっと背が高くて…
細い。
「石田、さん…」
呟けば、彼は相変わらずの不機嫌でキツい目でこちらを見た。
何だ、とでも言いたげである。
「ありがとう」
「刑部に運ばせるなど許さない。次からは私に言え」
礼を言うとふい、とそっぽを向いてそう言われた。
…何なんだろう、この二人。
ふと目をやれば椅子に座った大谷が笑っていた。
変な奴。
ちょっと可愛いとか思ったのは気のせいだ。うん。
「二人ともありがとう。助かったよ」
「ヒヒッ、美味な朝餉の礼よ、レイ。気にしなくてよかろ」
「…嬉しいよ」
本当に嬉しいと思った。
会ったばかりの私にこんな風に接してくるなんて。
…たとえそれが打算で、嘘かもしれなくても。
さて、食器洗おうかな。
2012.1.10