流星クラウン
□紡ぐ周回軌道
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此処に来てからは目まぐるしい。
戦に敗け、意識が朦朧としていたところ、ふいに覚醒したのが東雲殿の屋敷であった。
隣に石田殿が倒れていて、首を傾げたところで己の体の異変に気づいた。
隣の石田殿に異変はないように見えるのに、何故こんなにも大きく見えるのか。
全く違う体の感覚と体が縮むという意味不明な現象に混乱していると、血相を変えた佐助が部屋に飛び込んできた。
そして安堵とも困惑ともつかぬ顔の佐助に連れられて出会ったのはこの屋敷の主、東雲殿だ。
俺たちに「ここに住め」と言った彼女は、どこまでも無表情で。
その真意は俺にはわからなかった。
けれど、東雲殿が作ったという朝餉はとても温かで、美味で。
理由は無いけれど、この女子を信じてみようと思った。
何故か、ここでやっていける、そんな気がしていた。
☆・・・☆・・・☆
解せぬ女よ。
それがあの女に対する印象。
嫌がるでもなく、かといって嬉しそうでもない女の行動は正直言って意味不明だ。
己が望まぬ来客などさっさと放り出せばいいものを。
それをあの女、「何かの縁」などと抜かしおった。
生温さに吐き気がする。
しかし我の置かれた状況を考えれば女の提案に乗る他は選択肢が見つからない。
外の様子もさることながら、屋敷の中でさえ見慣れぬものばかりなのだ。
これで放り出されようものなら確実に路頭に迷うだろう。
ともかくもこちらにとって不利な条件があるわけでもないのだ、となればあの女も我の手駒として動かせばいいだけのこと。
造作もないわ。
ただ、出された朝餉に、買い与えられた衣類に、戸惑う。
居候に、しかも押し掛けの我らにここまでの待遇をするのは何か。
裏があるならばその裏を突かねばならぬ。
己の考えとは別に、穏やかな空気が漂う女とその他の男どもに腹が立つ。
…何故?
そして何より、それも悪くないような気がしてしまう自分が一番腹立たしかった。
…本当に、解せぬ。
☆・・・☆・・・☆
何か、毒気抜かれちゃうよね。
あの子が何考えてるんだかさっぱりわかんないや。
帰ってきた彼女は俺たちに選ばせた肌着を会計しにいった。
「ねぇ」
「どした?」
「その、金子とかって大丈夫なの?」
自分達の所為で破綻されては困る。
お金が無限にあるわけでは無いだろう。
「あぁ、それなら問題ないよ。これでも稼いでるんだ、私」
「女の子なのに凄いね」
「今時女が働くのなんて普通だよ」
「え、そうなの?」
「女が働いて、男が家事、だってあり得るからな」
驚いた。
そんなに変わったんだ。
だったら俺は家事かなぁなんて考えてみる。
…でもやっぱ働かないなんて無理かも。
彼女は次に俺たちの布団を買い、日用品、を買うために一つ下の階へ下りた。
…至れり尽くせり、って感じだ。
いつ帰るかもわからない俺たちにここまでする理由って一体なんなのさ。
まぁ、貰えるものは貰っておいてもいいか。
色とりどりの椀や湯呑みを買う彼女を見る。
どうにも表情が読みづらい。感情の起伏があまりないのか、それとも隠すのが上手いのか。
「大丈夫? 重くない?」
「これくらいへーきへーき」
「悪いな」
「女の子に持たせるわけにもいかないっしょ。ねぇ、石田の旦那」
「……あぁ」
石田の旦那はなんだかそっけない。
さっき彼女に言われたことを気にしてるんだろうか。
「女だなんて思わなくていいからさ」
なんて、予防線かと思ったけどこの子なら本当に思ってるんじゃないかと考えてしまう。
「ねぇねぇお兄さんたち、今時間ありますー?」
そんな甘ったるい声が聞こえたのは、その時だった。
2012.1.18