†理王の願い†

□お菓子禁止令
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校内に菓子類の持ち込みを禁ずる。
 並盛中にはそんな校則がある。しかし、この手のものはかなり昔に作られ、今の風潮に合わないものも多い。菓子類も場合によっては持ち込みも許されるし、昔ほど厳しく取り締まってはいなかった。
 しかし二月の始め、何故かその校則が強化されることになってしまう。
 毎日のように行われる荷物検査。これだけでも生徒達の不満は大きかったが、本当の問題は実際何を対象としているかだった。
 その対象がこの時期最大のイベント。バレンタインであることは間違いなかった。
 しかし、お菓子会社の策略だろうがなんだろうが、好きな人にチョコレートを贈るこの一大イベントを外すワケにはいかない。それなのにお菓子の持ち込みを禁止されては、昼間の大半を学校で過ごす生徒達にとって、渡せる機会と貰える機会を大幅に削られてしまうことになる。
 一部の貰えないであろう男子生徒からは、取り締まり強化を指示する声もあった。だが、多数の生徒、特に女子の怒りは大きく、彼女達は強化を取り止めさせるための行動を起こす。

「え〜と、これが強化反対の署名。で、こっちが…意見書?だそうで…」

 応接室のテーブルに紙の束が積み重ねられてゆく。
 女子中心で反対署名が集められ意見書を作成。そして彼女達は、それを沢田綱吉に持たせて雲雀恭弥のところに送り込んだ。
「で、なんで僕のところに来るの?」
 ペラペラと意見書を捲りながら、雲雀は訝しげだった。それもその筈で、今回のお菓子持ち込み禁止を強化させているのは雲雀が委員長を勤める風紀委員会ではなく、教師陣だったからだ。
「最初は先生に抗議したらしいんですけど、教頭先生が言い出したらしくて…」
 この教頭というのが今年度から並盛中に赴任してきたのだが、必要以上に規則にうるさい人間だった。風紀委員ですら言わないような細かいところを、重箱の角をつつくような執拗さで見つけ、ネチネチと説教する。お陰で生徒達にはかなり嫌われていた。
「その教頭先生にも抗議したらしいんですけど、全然取り合ってくれなくて…それで、その…」
「僕ならなんとかできると?」
 教頭が何を言おうが、実質上学校を取り仕切っているのは雲雀だ。彼ならばと生徒達は思ったのだろう。
「お願いします!せめてバレンタインの日だけでも…」
 綱吉は深々と頭を下げる。彼女にとっても、バレンタインは欠かせないイベントだ。
「君は誰かにあげるの?」
「へ?」
 それは意外な質問だった。
「山本武とか獄寺隼人とか…」
 何故その二人の名前があがるのか不思議に思いつつも、綱吉は正直に頷く。
「それはあげますけど…」
 すると、何故か雲雀の眉がギュッと寄り、厳しい顔になる。明らかな機嫌の急降下。しかし考えながら話している綱吉は、それに気付かない。
「二人だけじゃなくて、京子ちゃんとか黒川とかハルとかにも…友チョコってやつですよ」
「…友?」
「友達同士で贈りあうんですよ」
「ふぅん、友達…」
 それを聞くと、今度は雲雀の顔から厳しさが薄れていった。
「友達以外は?あげるの?」
「え?…え〜と…」
 少しドキリとする。友達以外であげたい人は居る。それは一番あげたい人。
「か…母さんとか家のチビ達とかにあげますよ」
 とりあえずこれも嘘ではないが、その一番をここで言う訳にはいかないのだ。
「………そう…」
 奇妙な間の後、返ってきた返事は溜め息混じりだった。綱吉は、何かマズいことを言っただろうかと冷や汗を流す。
 よく考えてみれば、友達にチョコレートを贈るなんて群れていますと言っているようなものだ。ここに来る前、みんなになんとか雲雀を説得するよう頼まれたのに、これで断られたら合わせる顔がない。

 だから無理って言ったのに…なんで俺だったんだろう?

 確かに最近、雲雀と話す機会が多い。しかしそれならば、気軽に話し掛けたりしている山本の方が相応しいと思うのだが、何故か満場一致で綱吉が行くことになってしまった。
 大抵の人間は雲雀に対すれば恐怖で緊張する。しない方が珍しい。だが、綱吉はまた別の意味でも緊張していた。
 胸のドキドキが息苦しいくらいになっている。色んな意味で、もう駄目だと思いかけた時、綱吉は友人の言っていたことを思い出した。

 確か、京子ちゃんが手は打ってあるからって言ってた…

 笹川京子はいい加減なことを言う子ではない。しかし何をしたのかが分からない。意見書に目を落とす雲雀の様子を窺うが、変わったところはないようだ。が、ふとその手が止まる。微かに表情が動き、何かを見詰めた。そして…
「分かった。この件に関してはなんとかしておくよ」
 と、突然承諾してくれた。
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