†理王の願い†

□お菓子禁止令
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「そんなっ…」
 それでは到底間に合わない。
「た…大切な…大切なものなんです!お願い、返してください!」
 蒼白で涙目になりながら頼む綱吉を、教頭は鼻で笑っただけで行ってしまおうとした。綱吉は必死で教頭の服を掴み、なんとか返して貰おうとする。
「返して!それは…それはっ…」
 叫びに近い想いが、校内にこだました。





 その少し前。綱吉がチョコレートを手に悶々としていた頃、応接室に居る雲雀もまた、一枚のメモを見ながら悶々としていた。それは、あの意見書に挟まっていたものだ。雲雀が動きを止めたのは、このメモを見つけたからだった。
 それには、こう書かれていた。

 規制強化を撤回してもらえたら、雲雀さんにも良いことがありますよ。

 綱吉の字ではない。だが、誰が書いたかは想像できる。雲雀は自分が分かりやすい言動をしていたという自覚があったからだ。それにほとんど者が気付いていただろう。
 もっとも、当の本人はまったく気付いてはいないようだったが…
 そのことに雲雀は苦笑する。だが、メモに書いてあることが本当ならば、分かりやすい言動も無駄ではなかったということだ。
 しかし、その良いことはまだやって来ない。さて、どうするかなと思ったその時、外から聞き覚えのある声が聞こえてきた。なにか慌てているような、困っているような…そんな声が気になって、雲雀は応接室を出る。
 声の聞こえる廊下の先を見ると、教頭そして綱吉が居た。

「お願い返して!それは…それはっ…」

 必死の叫びは雲雀にも届く。

「雲雀さんにあげるんだから!!」

 持ったままだったメモが、まるで、ほらねとでも言うようにカサリと音を起てた。





 綱吉は、とにかく返して貰おうと必死で、自分が何を叫んだのかなんて気にする余裕もなかった。
「お願い…」
 ポロリと涙が零れる。こんなことなら早く渡しに行けば良かったと、ぐずぐずしていた自分に腹が立つ。
「フン、泣き落としは通用しない。だいたい女の涙は…」
 いったい女性で何があったのやら、ぶつぶつと文句を言い始めた教頭だが、そこに突然の衝撃がやってきた。
 教頭が何かに飛ばされ床に転がる。
「……あ…雲雀…さん?」
 後ろから、雲雀の姿が現れた。どうやら彼が、教頭を殴り飛ばしたらしかった。
「なに…を…」
 床に転がった教頭が、殴られた痛みに顔をしかめながら体を起こし、雲雀を睨み付ける。
「お前、教師に向かってなにを…」
「僕のものに手を出す方が悪い」
 そう言った雲雀は、綱吉のチョコレートを持っていた。殴る前に奪い取ったのだろう。
「こ、こんなことをしてただで済むと思っているのか!」
 確かに普通ならば、教師を殴れば問題になるだろう。しかしここは並盛で、相手は雲雀だ。
「僕はあなたに対しては怒ってる。でも今はそれどころじゃないんだ。だから…」
 雲雀の目がすぅっと細まる。今まで呆然と事の成り行きを見ているだけだった綱吉が、ビクリと肩を震わせた。雲雀から漏れ出る殺気に反応したのだ。
「ひっ!?」
 教頭も何か感じたのだろう。青くなって後退りする。
「さっさと僕の前から消えろ」
 それは弾かれるようだった。ようやく、雲雀を敵に回してはいけない人物だと悟った教頭は、一目散に逃げて行く。その後ろ姿を興味なさげに一瞥すると、雲雀は綱吉に向き直った。
「ふひっ!」
「あ…」
 先程の殺気に中てられて、綱吉の顔は真っ青だ。雲雀はそれに、珍しくしまったという表情する。
「……はい、これ…」
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