†理王の願い†

□お菓子禁止令
2ページ/5ページ


「ホ、ホントですか!?ありがとうございます!!」
「元々風紀委員会の取り仕切ることだし、あの教頭は以前からその辺りにも口を出してきてうるさかったからね」
 どうやら雲雀にとっても、教頭は目障りな存在らしかった。
「これを機会に並盛の秩序が誰かを思い知らせておかないと」
「え?いや、それは…」
 楽しげに笑う雲雀の顔は獲物を狙う肉食獣のようだ。教頭は今年度限りで並盛を去ることになるだろう。
 とりあえずなんとかなったことに安堵しつつも、綱吉はほんの少しだけ教頭に同情した。





「じゃあ、雲雀さん、なんとかしてくれるって?」
「うん、少なくともバレンタイン当日に荷物検査とかはされないようにしてくれるって」
 教室に戻った綱吉は、待っていた皆に結果を報告する。前年と同じく風紀委員会、教師共に黙認すると雲雀は約束してくれた。
「あ、でも、あまり騒ぐのはダメだって言ってたよ」
「うんうん、分かってる。分かってるよ〜」
 あまり分かっているようには見えない女の子達の騒ぎようだが、雲雀は多少のことなら目を瞑ってくれるのだろう。
「雲雀さんって、なんだかんだ言っても優しいよね」
 初めて会った時は怖い人だと思ったが、最近は随分と優しい。それは綱吉の素直な感想だったのだが…
「え?…あれ?」
 何故か皆、微妙な顔でこちらを見ていた。ある者は呆れ、ある者は半笑い。自分はそんなにおかしなことを言っただろうかと、綱吉は首を捻る。
「まあ…沢田さんはそう思うよね」
「う〜ん…やっぱり気付いてなかったか」
「えと…気付いてないって、何に?」
 益々分からないことを言われて戸惑う綱吉だが、みんな頷くだけで答えはくれない。
「ツナちゃん。それはいずれ分かるから…」
「京子ちゃん」
 今まで黙って聞いていた京子が、フォローしてくれる。
「いずれって?」
「多分近いうちに…だからツナちゃん」
 ガシッと肩を掴まれる。いつもの笑顔なのに、京子は妙な迫力だった。

「渡そうね」

 ドキリとした。その渡すが何か、流石に理解できたからだ。
「う…でも…」
「ツナちゃん。もうすぐ卒業…だよ?」
 そう、もうすぐ卒業シーズンだ。卒業するのはまだ二年生の綱吉ではなく、渡したい相手の方だった。
「…うん」
 頷いたものの、綱吉はまだ迷っていた。バレンタインのチョコレートを、彼にあげるのかを…





 バレンタインの当日は何事もなくやってきた。
 雲雀は約束通りなんとかしてくれたらしく、教師達も取り締まるようなことはしてこない。
 チョコレートをあげた人、あげられなかった人。貰えた人、貰えなかった人。それぞれの想いが巡る一日が過ぎ、放課後。校舎の一角に一人、いまだ決心が着かず、悶々としている者が居た。
「…どうしよう。でもここまで来たんだし…」
 角を曲がれば目的の場所が見える。しかしその角をなかなか曲がれず、綱吉は手に持ったチョコレートを見詰めていた。その大きさは友達にあげたどのチョコレートよりも大きく、ラッピングも一段と綺麗にしてある。明らかな本命チョコだと分かる代物だった。
「いや、あげるって京子ちゃんとも約束したし、来年はどうなるかなんて分からないし…よしっ」
 ようやく決心が着いたらしい綱吉は、顔を上げ歩き出す。
 だが、その時だ。横から伸びてきた手が、チョコレートを取り上げてしまった。
「…え?」
 綱吉は取られたチョコレートを目で追う。
「あっ…教頭…先生」
 その先には例の教頭が厳しい顔で立っていた。
「これは何だね?」
 痩せすぎな体に、細くつり上がった目。誰かが昔話に出てくる意地悪な狐のようだと言っていたが、言い得て妙な容貌だった。
「そ、それはバレンタインのチョコレートで…」
「学校に菓子類を持ってきてはいけないことを知らないのか?」
「え?でもそれは…」
「あの風紀委員長が何を言おうと、規則は規則だ」
 どうも教頭だけは、そこを許さないつもりらしい。
「だいたいなんなんだ。あの雲雀とかいう委員長は…校長も逆らうなというし、他の教師も言いなりだ。…そもそもバレンタインなんて、ロクなことはないのに…」
 最後の辺りは独り言というか、愚痴だった。しかも聞こえる限りでは、バレンタインに個人的な恨みがあって阻止したかったようだ。

 なんだよソレ。私情じゃないか…

 腹立たしいが、今は文句を言っている場合ではなかった。とにかくチョコレートを返して貰わねばならない。
「あの、すみません!それはそのまま持って帰りますから、返してください!」
 彼と上手く会えるか分からないが、チョコレートは学校の外で渡すしかないようだ。だが、教頭は返そうとはしてくれなかった。
「ダメだ。これは没収。返すのは君が卒業するときだな」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ