†蝶の夢†
□アネモネ
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大体、王家と6侯爵家以外はいたって普通の人間なのである。
国民たちは国を治める者が吸血鬼であることを知らない。
それはひとえに、吸血鬼が、おとぎ話よろしく日光や聖水、十字架を苦手としないからだ。
流石に純銀製のモノで傷付けられると回復するのに時間がかかるが、昼間でも活動出来るし血以外の物も食べる。
故に国民の誰もが気付かないのだが、そのせいで王家と6侯爵家は自由に行動できなかったのだ。
まず、吸血鬼の血族である為に血を飲まなければいけないが、国民にバレない様にしなければならない。
更に、間違っても、暴走して国民を襲わない様に、吸血鬼の子供たちは厳しい教育を受ける。
そして、人間との恋愛は許されていなかった。
何処から吸血鬼の事がバレるか分からない為、昔から定められた掟である。
恭弥は昔から束縛されるのが嫌いであった。
何よりも自由を好み、何よりも自由を求めた。
どうして
なぜ
こんなにも、ここは苦しい―
幼いながらに、既に頭脳明晰であった恭弥は、邸の中は自分を閉じ込める籠(かご)だと理解していた。
それ故に、父親をトンファーで脅し…っげふん、父親に頼み込み、雲雀家の治める街を散策する事がたびたびあった。
その間だけは、邸で感じる束縛される感覚がなくなった様に感じて、恭弥のいい気分転換になった。
もちろん、監視がついているので、それを毎回咬み殺すのも既に恒例行事である。
「…逃げよう」
すっくと立ち上がり、恭弥は部屋の窓を開けた。
元々、邸から出ようとだいぶ前から考えていたのである。それが早くなっただけだ。
何もかも制限された場所など、自分には苦痛でしかない。ならば、外の自由な世界で生きたい。
そう思い、恭弥は窓から飛び降りた。
吸血鬼は日の光を苦手としないが、だからといって生活サイクルが人間と同じという訳ではない。やはり夜の方を好むし、完全に昼夜逆転した生活をする吸血鬼もいる。
恭弥も夜を好み、昼の1時頃に寝て夜の7時頃に起きる。
逆に、国を支える国王と6侯爵家の当主は人間と変わらない生活サイクルを送っているため、夜は寝ることが多い。