†理王の願い†

□新米魔女と半獣少年
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 特にこっそりと近付いたわけではないが、話しに夢中になっていたせいか、女の子達は雲雀に驚いた。
「な、なんでも…なんでもないです!」
 先ほどまでは元気がなかった様子の綱吉だが、今度はあたふたとしながら顔が真っ赤にする。
「でも顔があか…」
「ホントになんでもないんです!!」
 何が恥ずかしいのか、ジタバタとし出した綱吉に、やっぱり女の子はよく分からないと雲雀は首を傾げた。
 友人達と別れ、街を出たその後の帰り道でも、綱吉は少しだけぎこちなかったが、家に着く頃にはいつもの綱吉に戻っていた。何があったのかは教えて貰えそうにないため、雲雀はそのことを気にするのをやめる。女性の内緒話には、首を突っ込まない方が良いのだ。
「綱吉、これはどうするの?」
「あ、それはこっちに…」
 街で買った食料や雑貨。雲雀に持って貰っていたそれを、綱吉は受け取る。
「あ、いっ…」
 渡そうとした雲雀の鋭い爪が、綱吉の柔らかな皮膚を裂いた。
「綱吉!?」
 雲雀は慌てて手を引っ込めたが遅かった。傷口からは血が滲んでいる。
「血が…」
「あ、大丈夫です。すみません。ちょっと引っ掛けちゃって」
 実際、傷は大したことなかった。後で絆創膏でも貼っておこう。その程度のものだ。それなのに、雲雀は何故か厳しい表情で傷を見ている。
「雲雀さん?あの、本当に大丈夫ですよ」
「あ…うん。ごめんね」
 珍しく謝られて、綱吉はなんだか照れてしまう。
「や、平気ですってば!このくらい全然!そ、それよりも、これ、早く運んじゃいましょう!」
 落ち着かない気分になった綱吉は、荷物を持って家の中へと急ぐ。その後ろで雲雀は、獣の鋭い爪を持った自分の手を、深刻な面持ちでジッと見ていた。





 森の中心で、綱吉と雲雀はすでに日課となっている解呪を今日も試みていた。いつもと同じく失敗ばかりだったが、街に出掛けて以来変わったことがある。それは綱吉が今まで以上に熱心になったことと、どうでもいいと言っていた雲雀がやけに協力的になったことだ。綱吉は雲雀のこの変化を、街に行って半獣であることに不便さを感じたためだと思っていた。だからこそ余計に、呪文を唱える声にも力が入る。しかし焦れば焦るほど、上手くいかなくなっている気がして、それがまた焦りを生むという悪循環に陥っていた。
「綱吉。少し休もう」
 そんな綱吉の焦りを感じた雲雀が、休憩を促す。しかし綱吉は首を横に振った。
「でも、もう少し…」
「駄目。疲れてると上手くいかないよ」
 確かに呪文の唱え過ぎで喉が痛い。いつもはからかうようにさえずる小鳥達も、心配そうにこちらを見ていた。
「…はい」
 大人しく頷いて、近くの石に腰を降ろす。
「綱吉。何をそんなに焦っているの?」
 雲雀の問いに、綱吉は俯く。
「雲雀さんは、もう戻りたいって思ってますよね」
「…うん」
 雲雀は嘘を吐かなかった。それは無意味だと思ったからだ。確かに、自分は戻りたいと思っている。
「ごめんなさい。俺がそんな姿に…ちゃんと戻します。戻しますから…」
「謝らなくていい。それに、君に無理をさせたいわけじゃない」
「でも…」
 俯いていた顔を上げると、いつの間にか雲雀が目の前に居た。
「考えたんだけど、やっぱり例の特殊な解呪方法じゃないと駄目なんじゃないかな」
「それは…」
 一通りの解呪方法は試した。もうそれしかないのかもしれないが、あんなに嫌がっていた方法のことを言い出した雲雀に、綱吉は不安を覚える。
 もしかして、キスをしても良い相手が見つかったのではないか。そう思うと心が痛い。
「ねぇ、試してもいいかな。その方法」
「…え?」
 それに返事をする間もなく、唇に何かがあたる感触がした。ふっかりしたそれは、たぶん毛だ。そして近すぎる場所に、雲雀の顔があった。
 しばらくすると、その感触と雲雀の顔が離れる。
「…戻らない」
 雲雀の憮然とした声に、呆然としていた綱吉は我に返った。
「…な…え?今…キ…キ…」
 キスされたのだとようやく気付くが、驚きすぎて上手く言葉にならない。
「ねぇ、なんで戻らないの?」
「え?」
「君は僕のことを嫌いなの?」
 驚きにまん丸になった目のまま、綱吉は首を横に振る。
「じゃあ、好きになってよ。キスで戻るなら相手は君がいい」
 雲雀は綱吉を正面から見ていた。そこには真剣な眼差しがある。

「好きなんだ。だから君がいい」

 それは綱吉にとって、泣きたくなるくらい嬉しくて、でも辛いことだった。
「…ダメ…です」
 絞り出すように言う。
「俺ではダメです」
 泣き出しそうになるのを必死で堪えた。
「何故?僕のことは好ききなれない?」
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