†理王の願い†
□新米魔女と半獣少年
7ページ/12ページ
「大丈夫。この布、取らなければ平気みたいだし…久しぶりに会ったんでしょ?」
「は、はい。ありがとうございます!」
「じゃあ、また後で…ここでいいね」
「はい」
雲雀の言葉に甘えて、綱吉は友人達とケーキ屋さんにいくことになり、雲雀とは一度別れる。
「で、あの人は誰なの?」
挨拶もなしに、さっさと行ってしまった雲雀の背中を、花が訝しげに見ていた。
「あ、ごめん。紹介できなくて。あの人は雲雀さんっていって…」
ケーキ屋さんに向かいながら、綱吉は雲雀について説明する。仲の良い彼女達には隠す必要もないだろうと、自分が間違って魔法を掛けて半獣にしてしまったことから特殊な解呪方法のことまで、すべてを話した。
「相変わらずドジね」
「うっ…」
花の一言が胸に突き刺さる。
「それであの人、なんだかはっきりと見えない感じだったんですね」
「だよね。しっかり見ようとするけどよく顔が見えないの」
それは綱吉の掛けた幻術のせいだが、やはり精度は低いらしい。綱吉は更に落ち込んだ。
「あ、でも、あのくらいなら大丈夫だよ」
「ですよね!」
「ま、とりあえずは問題ないわよ。それよりも今はケーキよ」
話しているうちに、ケーキ屋さんに着いた。単純な綱吉は、京子とハルのフォロー、そして新作ケーキに元気を取り戻す。
四人でケーキを食べながらの話題は、自然と雲雀のことになった。
「な、なんかデンジャラスな方です〜」
咬み殺すが口癖で、熊をも倒してしまったという雲雀に、ハルは震え上がる。
「あ、でも、優しいんだよ。色々手伝ってくれるし」
怖いけど優しいなんて奇妙な人だが、何故か誤解されてしまうのが嫌で、綱吉は雲雀の優しいところを一生懸命に話す。
そんな綱吉を見ていた京子が、なにかを思いついたように頷いた。
「ねぇ、ツナちゃん。魔法を解く方法なんだけど、好きになってくれた異性とのキス…なんだよね?」
「え?あ、うん…でも雲雀さんはその方法が嫌みたいで…」
本当なら、正規の解呪方法が一番良いのだが、雲雀が嫌がるのだから仕方ない。だから他の方法を探している。しかし、綱吉はそのことに安堵していた。だが、それが何故かということを、彼女はあまり考えないようにしていたのだが…
「その相手って、ツナちゃんで良いんじゃないかな?」
とてもにこやかに、京子はその理由を言ってしまった。
「な…んで?」
「だってツナちゃん。その雲雀さんのこと、嬉しそうに話すもの」
だから好きなんだよねと、京子は言うのだ。
「それは…だって、それは…」
なんとか否定する言葉を探そうとする綱吉だが、元より嘘のつけない性格だ。顔を赤くする。しかし同時に、悲しげな表情でうつむいてしまった。
「ツナちゃん?」
「あのね。たぶん、そうなんだ。俺、雲雀さんのこと…」
そう、いつからかは分からないが、自分は雲雀のことが好きなのだろうと綱吉は認める。
「でも、雲雀さんは俺のことなんて…」
「そうかな?雲雀さんが優しいのはツナちゃんだからじゃないかなって思うんだけど…」
そうなのだろうか。しかし綱吉には自信がない。雲雀は森の小さな動物にも優しいからだ。それに問題は他にもあった。
「でも、ダメなんだ。ダメなんだよ…」
「なにがダメなの?」
泣きそうになりながら、綱吉はダメの理由を話し始めた。
綱吉達がケーキを食べている時、雲雀は街を散策していた。
ただ歩いているだけのように見えるが、その足は確実に人気の少ない通りへと向かって行く。寂しい裏道入ってからしばらくすると、雲雀は不意に立ち止まる。
「平和に見えても、この手の輩はどこにでもいるね」
いつの間にか、数人の男が雲雀を取り囲んでいた。どう見ても堅気ではないだろう人相だ。一般人ならば震え上がりそうな状況だが、雲雀は不敵に…というよりは、実に楽しそうに笑った。
「一般人は咬み殺さないけど、こいつらは一般人じゃないよね」
ハルが聞いたら、やっぱりデンジャラスな人だと青くなるようなこと言う。
「それに、綱吉がよく来る街みたいだし、掃除はしておかないと」
そして京子の読みも、あながち外れてはいないのかもしれなかった。
雲雀が約束の場所まで戻ると、綱吉はすでに来ていた。まだ友人達と一緒だったのだが、少し様子が変だった。元気がないように見える。
「ツナちゃん。大丈夫だよ。きっと他の方法がみつかるよ!」
「そうです!ハル達もできることがあれば協力しますから」
「とにかく、一人で抱え込まないで、私らでも話くらいは聞けるんだから」
「うん、みんな、ありがとう」
ケーキを食べに行っていた小一時間、いったい何があったのやら…雲雀には女の子のことはさっぱり分からない。
「何かあったの?」
「ふぇ!?」
「ひゃあ!?」
「あ…」
「あら…」