†理王の願い†

□新米魔女と半獣少年
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「それは、魔導師学会でも魔女連盟でも魔術師総連でも禁止されてます」
「…そういう組織、どこにでもあるんだね」
「そりゃあ、ないと大変なことになりますから…悪さする魔女もいますし、逆に何もしてないのに魔女狩りとか始まっちゃったり…」
 まだ、その手の組織が上手く機能していなかった時代は大変だったらしい。
「とにかく、森の中で生活しててもお金は要ります。だから、こうして時々稼ぎに行かない…とと」
 話しながら鞄を持ち上げようとした綱吉だが、詰め込み過ぎたのか重くてよろめく。
「持つよ」
 よろける綱吉から、雲雀はひょいと鞄を取り上げた。
「え?でも…あの、行くんですか?」
 もしかして街まで行くつもりなのだろうか。近くの村までならあまり問題はない。過疎化が進み、住民の八割がお年寄りである村の人々には説明してある。失敗したと話したら、ツナちゃんらしいねぇって笑われてしまうほど気心の知れている人達だ。しかし、その更に向こうにある街は違う。仲の良い友達もいるが、魔法に理解がある人ばかりではないのだ。半獣の雲雀がこのまま行ったら、かなりの騒ぎになるだろう。
「駄目なの?」
 どうやら行く気らしい雲雀に、綱吉は大慌てで倉庫から布を引っ張り出してくる。
「これ、羽織ってってください」
「なにこれ?」
「それは普通の布ですけど…」
 綱吉は杖を取り出すと、何かの魔法を掛けだした。
「なにをしたの?変わったとこはないみたいだけど…」
「幻術です。これで俺と雲雀さん以外には普通の人間に見えてる…はずです」
「…はず?」
「幻術苦手なんですよ〜。本当はこんな布要らないんですけどね」
 ないと不安なくらい苦手らしい。
「あ、でも見破るのは得意なんですよ」
 掛けるのは苦手で見破るのは得意というのは珍しいらしい。
「なんかそれって、バランス悪いよね」
「う、それは先生にもよく言われました」
「先生なんているの?」
「それは魔女見習いが行く学校みたいなのがあって…」
 修行時代の話をしながら、二人は街へと歩き出した。
 森を出て村を通り過ぎる。その先は街への一本道が続いていた。のどかな田園風景が広がるそこをひたすら歩くと、小一時間ほどで街に着く。
 そこは街としては中規模だが、この辺りでは一番人の出入りが多く、流通が盛んな場所だ。街は活気に満ちていた。
「咬み殺したくなるくらいの群れだね」
「咬み殺しちゃダメです!ていうか雲雀さんて群れてるのが嫌いなんですか?」
 そういえば、森に来た理由も一人になれるからだったことを綱吉は思い出す。
「うん、でも理由もなく一般人は咬み殺さないよ」
「一般人は…ですか」
 そこは気になったが、この平和な街に一般人ではない人はあまりいないので、不安になる必要はないのかもしれない。
「それよりコレ、どうするの?」
 雲雀はハーブがいっぱいに入った鞄を指す。
「えと、いつも買ってくれるお店があるのでそこに…こっちです」
 いつものお店に向かって歩き出した綱吉を、追う形で雲雀も歩き出す。誰も半獣姿の雲雀を気にしていない。綱吉の幻術は、しっかりと働いているようだった。
 いつものようにハーブを買い取って貰うと、今度は食料や雑貨のお店で生活に必要な物を買い揃えてゆく。それが一通り終わり、さて、買い忘れた物はなかったかなと確認していた時、通りの向こうから数人の女の子が現れた。
「ツナさ〜ん!」
 その中でも一番元気の良さげな女の子が、綱吉に向かって手を振りながら駆け寄って来た。
「ハル!」
 綱吉も笑顔で手を振り返す。
「ツナちゃん。久しぶり〜」
「本当に久しぶりね。今回は随分と間が空いたみたいだけど…」
 少し遅れて、もう二人がやってくる。
「京子ちゃん、花。久しぶり。うん、ごめん。ちょっと色々あって…」
 ハル、京子、花の三人は幼い頃からの友達だ。母親に連れられて街に来る度に、同い年だったこの少女達と遊んでいた。普段、森の中で暮らしている綱吉にとって、貴重な交友関係だ。
「ツナさん。ツナさん。ナミモリーヌで新作ケーキが発売されたんです!食べに行きましょう」
 ハルが待ちきれないといった様子で、綱吉の手を引く。いつも行く美味しいケーキ屋さんの新作と聞いて、綱吉も心が躍った。
「え、ホント!?行く行く!…あっ」
 いつもなら、このままケーキ屋さんに直行なのだが、今日はいつもと違うことを思い出して、綱吉は後ろを振り返った。そこには、当然のことながら、雲雀が立っている。
「あ、あの…」
 行くのなら、雲雀も一緒にということになるだろう。しかし、雲雀は群れが嫌いだ。しかも自分以外はみんな女の子。行きたがるとは思えない。もしも嫌だと言われたら、残念だが今回のお誘いは断るしかない。
「いいよ。行っておいで。僕は一人でこの街を見て回ってるから」
「え?でも…」
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