†理王の願い†

□新米魔女と半獣少年
5ページ/12ページ



「ああ、それは母さんです。俺にとっては料理好きなのほほんとした人だけど、難しい魔法もちょいちょいっとこなしちゃうんですよ。俺と違って…」
 綱吉は複雑な表情になる。森を出て修行していた時、あの大魔女の娘ということで注目されたのだが、本人はこの通りダメダメで、色々言われたりもしたのだ。
「顔は似てるんですけどね」
「そうなの?」
「はい、よくそっくりって言われます」
「ふぅん、じゃあ可愛いお母さんなんだね」
「可愛いかどうかは…」
 そんなこと考えたこともなかった。父親は世界一可愛いと言うが、妻ラブな人なので、綱吉はあまり真に受けていない。そもそも似た顔でそんなこと…と考えて、綱吉は気付く。
 雲雀が可愛いと言ったのは、綱吉の母親が綱吉と似ていると知ったからだ。それはつまり、綱吉を可愛いと言っているようなものではないだろうか。

 あれ?それって…いや、いやいや、雲雀さんのことだから、深い意味はないはず…ほら、俺って童顔だから、子供みたいで可愛いってことだよね!

 必死で深い意味などないと自分に言い聞かせるが、体は正直だ。体温が急上昇して、顔は見る間に赤くなった。
「綱吉。どうしたの?」
 赤い顔で黙ってしまった綱吉を、雲雀が覗き込む。
「な、なんでもないです!」
 綱吉は自分が思ってしまったことを振り払うように、頭をブンブンと振った。雲雀が可愛いと言ったのは、あくまでも母親のことで、自分に言われたのではない。でも綱吉は、ちょっとだけ嬉しいと思ってしまっていた。





 森の中心、石の円がある場所で、今日も綱吉は呪文を唱えていた。目の前には雲雀が暇そうにしている。家にある魔導書を片っ端から読み返して見つけた解呪方法を試しているのだ。
 雲雀はいいと言ったが、綱吉は元の姿に戻すことを諦めてはいなかった。
 しかし、これがなかなか上手くいかない。今の呪文も結局は失敗してしまう。
「ん〜…これもダメかぁ。よし、次は…」
 パラパラと魔導書を捲り始めた綱吉に、まだやるのと欠伸混じりに雲雀が言う。
「やりますよ。とりあえず全部試してみないと…あった。これだ」
 綱吉は呪文を覚えると、集中するために目を瞑る。それは真剣な表情なのだが、雲雀は柔らかそうな頬が気になった。

 触りたい。

 その衝動のままに手を伸ばす。長く鋭い獣の爪で傷付けないように気を付けながら、頬を摘んでみた。
「ふにゃ!?」
 想像以上の柔らかさに雲雀は満足したが、集中していた綱吉にしてみればたまったものではない。
「な、なにするんですか!?」
「だって、僕は暇だし」
「いや、ちょっとくらい我慢してくださいよ」
 摘まれた頬をさすりながらお願いしてみるが、言うことを聞いてくれる人ではない。今だって肩にとまった小鳥をつついて遊んでいる。
 意外なことに、森の動物達は雲雀によく懐いた。小さな小鳥から、咬み殺したはずの熊五郎さんまで怖がるというよりは、慕っている感じだ。半獣の姿もあってか、それは正に森の王といった風情だった。

 みんなには分かってるんだろうな。おっかないけど優しい人なんだって…

 だから尊敬もされるのだろう。
「雲雀さんはすごいですね。みんなに懐かれてて…俺はいまだに小鳥達にもバカにされます」
「それは仕方ないよ。君、まだまだ新米でしょ」
「まあ、そうなんですけど…その子達には時々髪を引っ張られたり頭の上に乗ってなかなか退いてくれなかったり…嫌われてるんじゃないかって思っちゃうんですよね」
 襲われないが、からかわれることはよくあるのだ。
「じゃあ大丈夫なんじゃない?嫌われてたら、からかうことすらしないよ」
「ええ〜そうですか?」
 綱吉は半信半疑だが、からかうのは構いたいからだ。むしろ、好きだからちょっかいをかけてくるのだろう。
 ふと、それは自身の行動にも当てはまる気がして、雲雀はさっき綱吉の頬を摘んだ手を見た。集中していると分かっていても、手を出してしまったあの行動は構いたかったからなのだろうか。触れてみたいと思ったあの衝動は…
「ふぅん…なるほど」
 雲雀は納得したように頷く。
「なにがなるほどなんですか?」
「…いや、なんでもないよ。それよりも、次の呪文を試すんじゃないの?」
「え?あ、はい!」
 何故かやる気になってくれたらしい雲雀の気が変わらないうちにと、綱吉は再び解呪の呪文を唱え始めた。





 雲雀が居る生活にもすっかり慣れたある日、綱吉は大きな鞄にたくさんのハーブを詰め込んでいた。
「なにしてるの?綱吉」
 今まで見たことのないその行動を、雲雀が不思議そうに観察している。
「街にハーブを売りに行くんです」
 月に一度ほど、作ったハーブを売り、そのお金で生活に必要な雑貨や食料、魔法に必要な本や道具を買い揃えるのだと、綱吉は雲雀に教える。
「へぇ、魔法でお金を作るんじゃないんだ」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ