雪どけの花

□放課後
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高村と別れ、職員室を出たのは18時を過ぎた頃。

靴箱へ向かおうとした僕の視界の隅に、人影が映って足を止めた。

相手も僕の存在に気づいたらしく、こっちを見ている。

あれはもしかして。


「大原……?」


声を掛けたが、相手は何も言わずに階段を上って行った。

人違い、だったかな。

薄暗かったけど、確かにクラスメートだったと思う。


……でも何で《上》に行くんだ?


何だか妙な気がした。

部活に入っていない彼女がこんな時間まで、1人学校に残って何をしているのだろうか……。

胸騒ぎがする。

気になった僕は、いてもたってもいられず人影の後を追った。


足音は上から聞こえてくる。

教室は3階までしかないのに、足音はその上から。

そこは唯一、屋上に行く事の出来る階段がある場所だった。

常時、鍵は掛かっているはずなのだが……。


ガチャリ


ドアが開く音が響いてきた。

僕はドキリとして、階段を駆け上がる──。



「何やってんだよ!!」

思わずドアの向こうの光景に叫んでいた。


「あ、見つかっちゃった……」


大原由衣(ゆい)は僕らクラスメートの中でも、同い年とは思えない大人びた雰囲気の生徒だった。

僕は彼女が教室で友達と輪を作り、楽しそうに声を上げて笑っている姿はおろか、仲良く連んでいる姿すら見た事がない。

誰に話し掛けられても緩(ゆる)く微笑むだけなので、あまり人と話しをするのが好きではないのかなと思っていた。

とても綺麗な顔立ちで、その上勉強も出来て、スタイルもいい……なのに女子から嫌われていないのは、控え目で物静かな性格だからかもしれない。

皆から一目置かれている存在だった。


「消しゴム、拾ってくれてありがとう。具合はもういいの?」


「うん。あれ、大原のだったんだ」

そう言えば、拾って渡す前に倒れたからどうなったのか。

「消しゴム、僕渡さなかったよね……」

「狭間くんの机の上にあったから、貰っておいたわ」

そう言って、彼女は静かに背を向けた。



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