書斎

□紅の中で
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「はぁ、なんでこんな呑気な顔して寝てるやつなんか好きになったんだろ?」

溜息がもれるのが聞こえた。さっきとは違う感覚で意味が読み取れない。

何?何を言ってるのこいつ?
寝てるやつって誰?

えっ、もしかして私?まさかでしょ?
ちょっと、私そんなこと聞いてない!!いきなりすぎる!!

「寝てるっぽいし、気付かないかな・・・?」

気付かないって何に?そうだ、私寝てるんだ。
だから・・・。だから何だろう?

「キスしてもいいよな?」

えっ?ちょっ、待って。キス?え?起きる?
でも気まずい。どうしようもなく気まずい。

なんか、気配が近づいてきてない?

ど、どうしよ。待って、待って。落ち着いて。
お互いに冷静にならないと。話し合いましょう。

パチッという音がしたと同時に、鈍い痛みがひろがった。

「いつまで寝てる振りしてるつもりなんだよ」

私は体を起こしながら、はじかれた額をさすった。

「・・・気付いてたの?」

「分かるっての」

顔は逆光でよく見えない。
だけど、斜め後ろの席の子だというのは分かった。

そういえばこの前、係りで荷物持ってたら手伝ってくれたんだっけ。

「・・・。あそこまで聞いてて何も言わないのかよ」

沈黙が流れる。
聞いたことをもう一度思い返すと、顔に熱が集中するのを感じた。

「えっと・・・。あの、よ、よろしくお願いします」

私がそう言うと彼の顔が近づいてきた。



教室はもう赤から藍色に変わったというのに私の顔は変わらなかった。





おわり
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