勿忘草

□伝染するこころ
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俺のお気に入りの場所に連れて行ってあげるよ。
珍しくそんな誘いをかけてきた佐助に連れられて辿り着いたのは、人が踏み入ることなどほとんどないであろう小高い丘の上。
木々が茂りすぎて普通に登ってきたのでは辿り着けない高みには、一本だけ大きく伸びた楓の木があった。

その天辺に腰を下ろして下界を見回せば、月に青く輝く大地が見渡す限り続いている。

あぁ、世界はこんなにも広いのか。

「粋なことするじゃねぇか。」
「たまには趣向を変えてみるのもいいかな、てね。」

どことなく子供っぽい口調で言った佐助は、にっこりと笑って月を指さす。

「あの月が、時間が経つとどんどん落ちて行って、地平線に沈むんだ。代わりに太陽が後ろから覗いて、丁度ここで空が半分に分かれたみたいになる。」

それが一番きれいだから、それまではここにいよう。帰りはちゃんと送るからさ。
なんて、無邪気そのものの声で言うから、俺は思わず噴き出しながらそれに頷く。
時々、自分よりも年上だなんて嘘じゃないのか、と思ってしまう。

「政宗、俺のことガキだって思ったでしょ?」
「あー・・・否定はしねぇ。」

眉を上げて睨んでくる佐助の表情には、残念ながら愛しさしか浮かばない。
それに、どんなに不機嫌そうな顔をして見せた所で、纏う雰囲気が明るくてはただ拗ねているようにしか見えないのだ。
実際・・・起こっているのではなく、拗ねているのだろうし。
本人がそのあたりに全く自覚がないのが、もどかしくもあり可愛くもあるのだが。

しばらく俺を睨んでいた佐助は、俺からふいと顔をそらすとぼそりと言う。

「・・・初めてなんだから・・・」
「何か言ったか?」
「・・・だから!ここに連れてきたのは政宗が初めてなの!」

真田の旦那だって連れてきたことないんだからね!?
耳まで真っ赤にしてそんな告白をしてくるこいつに、意味を理解して思わず顔がにやける。
慌てて口元を手で押さえても、こみあげてくる笑いは隠しようがない。

あぁ、あぁもう本当にこの可愛い生き物をどうしてくれようか。

普段は決して「好き」の一言も言ってくれないのに。
こんなときばかり、・・・どうしようもないような殺し文句を言ってくれる。

ちらりと佐助の顔を見れば、こちらを見ているあいつの赤い顔から、俺への感情が伝わってくるような気がした。




<FIN>

title by:ふりそそぐことば

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