勿忘草

□雨宿りをした木の下で
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叩きつけるように降る雨に、俺はやむなく進むのを諦めて適当な木の下に宿を取った。
そんなに急を要する仕事でもないし、雨はすぐに止みそうだ。ちょっとくらい雨宿りをしても問題はないだろう。

「ふぅ・・・」

軽く息を吐いて、背を木の幹にもたせかける。
ここは甲斐からは遠くて見慣れない土地であるはずなのに、不思議と懐かしいのは何故だろう、なんて考えれば。

あぁ、そうか。

思わず表情を緩めて、俺はそっと目を細める。
ここは、奥州のすぐ近く。
この見慣れた森や土地を辿っていけば、きっと彼の元に辿り着ける。
転がり込んでやろうか、なんて考えて、俺は一人笑った。

そうしたら、彼はどんな顔をするだろう。
白昼堂々、姿も隠さずに訪れた俺に、珍しく焦ってくれるだろうか。
それとも、いつものように不敵に笑って、でも何でこんな雨の中来たんだ馬鹿、くらいの小言を言われるだろうか。
・・・確率的には後者の方が高い気がした。

全く、ねぇ・・・
まさかこの俺様が、あんな年下の男に絆されるなんて。

真田の旦那に対する少しばかりの申し訳なさとともに、温かいものが胸を満たすのを感じる。

気を緩めて誰かに寄り添うことが、こんなにも心地良いなんて知らなかった。
名前を呼ばれるたびに心が震える日が来るなんて、想像してすらいなかった。
・・・今の自分は、かすがのことを忍失格だなんて笑えない。

むしろ、俺様の方が失格、かな・・・一応、同盟結んでるとは言っても彼は敵、なんだから。

いずれ、天下を争う相手だ。そしてそうなった時、自分がつくのは、恐らく・・・

ぎゅっと目をつむって、そこから先を思考するのを無理矢理止める。
分かっている結末を、今はまだ直視なんかしたくない。
もう少し、もう少し・・・仮初の平穏と、幸福を。

瞼の裏で笑う彼に、無性に会いたくて仕方がなかった。




<FIN>

title by:ふりそそぐことば

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