水仙

□つないだ手の温もり
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随分と風が強くなってきた。
吹きすさぶ風に逆らうように歩を進めながら、アレルヤは鬱陶しく顔にかかる髪を払って後ろを向く。
一歩遅れて着いてきていたマリーは、気遣わしげなアレルヤの視線に顔をあげて微笑んだ。遊牧民のような衣装の裾がはためくのを軽く押さえつつ、アレルヤと並んで安心させるように笑う。

「私は大丈夫よ、アレルヤ。」
「本当かい?もうすぐ夕方だし、今日はこのあたりでテントを張れる場所を探すよ。」

どこがいいかな、と見回すアレルヤに、マリーは少しだけ苦笑を浮かべる。

「こんなことで嘘なんかつかないわ。本当に大丈夫なのよ?」
「それでも。・・・僕は君に無理をさせるために旅をしているんじゃないんだから。」

そう言われてしまえば、マリーは何も言えない。仕方なさそうに頷く彼女にホッと目元を緩めつつ、アレルヤは彼女を風からかばうようにしながら丁度良さそうな岩陰へと歩いていく。
旅の習慣としてすっかり慣れてしまった野営の準備を分担しながら、アレルヤは少しずつ落ちていく太陽とともに気温が極端に下がってきたことに気づく。よく晴れている日の夜というのは、空に雲がないため昼間の間に地中にたまった熱も放出されてしまってひどく寒くなる。
自分はともかく、とアレルヤはマリーを見やる。同じ超兵として改造された身とは言え、基礎体力の違いなどもある。

「マリー、今日は冷えそうだけれど、君が今持っている防寒具だけで足りるかい?」

マリーは荷物の上にかがんでいた体を起して、やや呆れた顔でアレルヤを見返した。

「アレルヤ、私だって超兵よ。さっきから言っているけれど、この位なら平気。」

心配しすぎなのよ、アレルヤは。
眉を上げて見せるマリーに、アレルヤは納得いかなそうに尚も顔を曇らせる。そんなアレルヤに、マリーはちょっと考えて、おもむろに彼に近づくとその手を取った。
自分のものよりも冷えている大きな手をしっかりと包んで、マリーはアレルヤを見上げる。

「ね、私の手は温かいでしょう?」
「うん、そうだね。」

確かに、僕の方が冷たい。苦笑したアレルヤは、マリーが続けた言葉に目を見開いた。

「・・・私は、あなたとこうして手を繋ぐために一緒に来たのよ?」
「マリー・・・」
「一緒に歩きたいの、アレルヤ。だから、あなたに守られてばかりの私は嫌だわ。」

優しいけれどもはっきりとした言葉に、アレルヤは静かに頷く。

「分かったよ、マリー。・・・でも、いざとなったら君を守るのは僕だ。」
「えぇ。信じているわ。」

にっこりと笑う愛しい存在に笑い返して、アレルヤは今度は彼の方から彼女を抱きしめたのだった。




<FIN>

title by:ふりそそぐことば

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