I.T.L
□第9戦【いつまでも残る言葉】
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眠っている最中、折れた左肩が柔らかい暖かさに包まれていた。その暖かさが全身にも行き渡り、まるで雲の上にでもいるよう。
雲の上を優雅に飛び回り、横切る風がなんとも心地好い。
しかし、突如として心地好い暖かさが消え去り、まるで地面に叩き落とされたように全身が重く感じた。
心地好かった気分もすぐに消え失せ、残ったものは身体の怠さと孤独感。
先程までは幸福感が俺の心を満たしていたが、今は暗闇の中で一人、うずくまっていた。
また俺は、夢を見ているのだろうか……。
そう思った矢先、目の前が明るくなり、重い瞼をゆっくりと開いた。
「!…お兄ちゃんっ」
真っ先に聞こえたリアの声。
明るい電気が目に直射し、眩しいと唸るかのように眉を寄せたり目を開いたり閉じたりとし、明るい部屋に目を慣れさせた。
すれば目は数秒程で慣れ、辺りが見渡せるまでとなった。
ここは……。
そうだ、セレンを治療する為に宿屋に来ていたんだっけ……。
「お兄ちゃん…、大丈夫……っ?」
リアは心配そうに眉を寄せ、まるで泣きそうな表情で俺の顔を覗き込んできた。
俺は「大丈夫だ…」と返事を返し、また辺りを見渡した。
すればそこには、ベッドに寝ていた筈のセレンは俺が目を覚ましたことに気付き、こちらに向かってきているところだった。
「フォックスッ、ああよかった……っ」
「セレン…?もう大丈夫なのか…っ?」
見たところ、青白かった肌は元に戻っており、先程まで倒れて気絶していたなんて思えない程回復していた。
これもヴェンがセレンが波癒[ルケア]で回復してくれたおかげだろうか。ならばヴェンに礼を言わなくては。
しかし、先程の暖かさはなんだったのだろう……?
僅かだが、まだ肩に残る暖かさ。あれは一体……。
「あ、肩の方は大丈夫ですか…?波癒[ルケア]を施したのでもう骨は繋がった筈だと思うのですが……」と、俺がダグに折られた肩を押さえていると、セレンがそう言ってきた。
成る程、これで謎は解けた。先程の暖かさは波癒[ルケア]によるものだったのか。それにしても、あの暖かさはどこかで感じたことのある暖かさだった。
そうだ、リアの持つ暖かさとほぼ同じだ。
何故……?波癒[ルケア]の暖かさと人の体温は全く別のもの。波癒[ルケア]の光は癒しの効果があるが、人が人に触れても傷は癒えない。
なのに何故同じだというのだ。
リアは一体……。