I.T.L
□第3戦【弱キ者ノ心】
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――翌日。まだ朝日が昇り始めたばかりの早朝。
俺達はこの街を発つことに。
リュイスにあの純金のマントを弁償をすると言ったが、そんな大金ある訳が無い。だから牢に入れられない前に、まだリュイスが寝ているであろう早朝に街を経つのだ。
それに、そろそろリュイスの元に兵士飼育所から情報が来るだろう。兵士飼育所から逃亡した反逆者、つまり俺の情報が。
この街から兵士飼育所までそう遠くない。俺とリアの足で二日かかっただけの距離だ。
あのまま街に滞在していればリア諸共殺されるかもしれない。
今も、きっと血眼になって地獄の使者共は俺を探しているだろう。
「リア、眠くないか?」
「うん、大丈夫だよ。それより…、ごめんねお兄ちゃん……」
「え…?」
突然リアが謝って来た。何のことか分からず、つい聞き返してしまう。
「昨日のこと……、勝手にあの新婦さんの所に行っちゃってごめんなさい…」
どうやらリアは昨日の結婚式の惨事のことを気にしているようだった。俺は全く気にしていなかったし、むしろリアを危険に晒そうとしていた自分の方がもっと悪い気がする。
俯いて涙を堪えているであろうリアの頭をポン、と優しく叩いた。
「そんなこと気にしなくていいさ…、な?」
「……うんっ、ありがとう…」
リアは涙を袖で拭い、優しい笑顔で微笑んだ。そしてリアの頭に乗せていた手で、優しく撫でてやった。
その時、
「待ってくださいっ!!」
突然、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向けば、必死にこちらに向かって走って来るセレンディア。
今度は、昨日のドレスなんかよりも動きやすそうな服装だった。長い黄緑がかった黄色の髪は一つに縛られており、まるで旅に出るかのよう。
セレンディアが俺に何を言いに来たのか、その服装で一目瞭然だった。
「はぁ…っ、はぁ…っ、わ、私も旅に一緒に連れて行ってください…っ」
かなり息が荒い。相当走って来たんだろうか。
だがそんなことはどうでもいい。セレンディアは俺が予想した通りの言葉を述べた。
「俺がお前を旅に連れて行く理由がどこにあるんだ」
「貴方には理由は無いでしょうね…。
ですが私は、父が一体どんな愚行をしているのかこの目で確かめたい…。
貴方が父のせいでどんなに酷い目にあったのか、それを知りたいのです。
そして…、貴方が今まで経験した苦しい思いや悲しい思いを理解して、またちゃんと謝罪したいのです」
海色のその瞳は、真剣そのものだった。
旅に出る覚悟を決める程、それだけ父親が酷い愚行をしてきたと知り、それをもっと知りたいと。
彼女はちゃんと現実と向き合おうとしている。俺のように現実から目を逸らして生きていない。
さすが女王になるに相応しい…、そう思った。
そんな女王様の言うことには叶わないと諦め、俺は折れてやることにした。
「仕方ない…、足手まといにはなるなよ」
「あ、ありがとうございますっ!」
共に旅に出ることを許可した途端、セレンディアは喜びを隠せず、その喜びようが顔にはっきりと出ていた。
素直で天然。更に女王という権限を持つ。とんだ人間を仲間にしてしまった少し後悔したが、それはそれで楽しくなりそうなので良しとしよう。