I.T.L

□第2戦【恩返しの代わりに君を守ろう】
2ページ/14ページ


――あれから二日程経った。
大木が一本だけ生えた丘から遠ざかり、俺達は何も食べず、小川で綺麗な水だけを胃に溜め、やっとのことで街に辿り着けた。

中心を囲うように丸くされた白い城壁。街の上を無数のガラス板に覆われた、まるでドームのような大きな街だ。
街の中心にはガラスが覆われてないのか、ドームの高さにはみ出す程高い、立派な城が建っているのが見えた。
多分ここは王都だろう。外から見ても街の全て把握出来ない程の巨大な規模を誇る街、そしてあのドームを突き抜ける高い城。
こんなものがある街等、王都以外有り得ない。


リアは少し痩せていて、綺麗な顔もやつれていた。
俺も体力には自身はあるが、二日間も何も食べずで歩き続ければ限界が近くなる。


「ここで待ってろよ」


門の隣にリアを座らせ、俺は言った。
突然放たれた言葉にリアは目を丸くし、勢いよく立ち上がったが、少しフラついていた。


「私も一緒に行くっ…!」


一人が嫌なのか、リアは俺の腕を掴んで辛そうな表情で言った。
そんなリアに、俺は心を鬼にさせ、


「ダメだ。俺が一人で行って食い物を盗んで来るから、ここで待ってな」


腕を掴むリアの手を離した。
リアの力は弱く、案外簡単に離せた。その力加減といい、先程のフラつきといい、リアの身体が衰弱していることに気がつく。

そんなリアを連れて行くわけにはいかない。


「盗…むの…?」


一瞬絶望した表情をしたが、すぐ元に戻った。
普通に、そして純粋に今まで暮らしてきただろうリアにとって、強盗は悪行にしか思えないだろう。
まぁそれは当たり前なのだが…。


「しょうがないだろ…。金が無いんだから…」


「…そう、だけど……」


リアはまだ納得出来ないという風に、俯き出した。


兵士飼育所で金なんか1ペスト(P14参照)も貰ったことなど無い。それ以前に、貰える訳がない。

あそこで育てられている兵士は1万を越える数。
フェストル国の王族の全面的な援助で、なんとか兵士達の食事等が出せているというのに、駒同然の兵士に金をやるなど反逆行為も同然。

故に俺はまだ金に触ったことも、使ったことも無い。使い方はもちろん分かるが。

このまま何か食べ物を食べなければ、俺達は必ず餓死するだろう。
ただでさえ、目眩が治まらない程疲労が身体を蝕んでいるというのに……。
だが食べ物を買う金も無い。

だから食べ物を盗む他、これから生きていくことは到底無理だろう。


「大丈夫。捕まったりはしないから、な?」


俺はリアを安心させるように優しく言い、そして頭を撫でてやった。


「…うん……」


それに安心したのか、リアはゆっくりと頷いた。
そんなリアに「良い子だ」と、もう一度頭を撫でてから、俺はリアを残して一人街へと向かった。



門番兵に門を通らせてもらい、街の中へと入る。
門が開けられた瞬間、目に飛び込んで来たのは、溢れんばかりの人。

どうやら中は市場のようになっているようだ。市場が道のように続いている。
溢れんばかりの人の原因は、この市場で買い物をしようとしている人達だろう。
先程から屋台の店主達が「安いよ安いよーー!!さぁ買った買った!!」という活気のある叫び声で客寄せをしている。

そして市場の先に見えるのは、あの高い城。
外と中からの城の外見は全く違う印象を与えた。
外からは城の天辺しか窺えなかったが、中から見る城は迫力があり、その立派さを物語っていた。

俺はその迫力に圧倒され、その場に立ちすくんでいたが、すぐ正気に戻った。


ふと下を向いた瞬間、屋台のすぐ近くで大きな袋を発見した。俺はその屋台の店主には何も言わず、その袋を貰うことにした。


様々な食べ物の屋台が並んでいた。食べ物だけではなく、防具や武器、衣服を売りにしている屋台もそう少なくはなかった。

俺は人ごみに紛れ、屋台の食べ物を、先程盗んだ袋に入れていった。
人ごみに紛れているので店主は、俺が盗んでいることに全く気付いていない。好都合なので袋がいっぱいになるまで食べ物を盗むことに。
食料はいくらあっても無駄になるものではない。

ついでに、売れそうな装飾品も人ごみの中の人に気付かれないように奪い取った。





――人ごみの中にいるのは嫌いだった。
理由なんて、人間が死ぬほど嫌いだから以外他にない。

だがこれは生きていく為。リアを養ってやる為だ。
だが世間の人間は「食べ物をください」なんて言っても、誰も食べ物を分けてはくれないだろう。


「頑張って生きろ」
「頑張れば頑張った分だけ報われる」


こんな無責任な言葉か、それとも、


「だからって俺の店の食い物を盗むな」
「別にお前が死んでも誰も困らねェよ、死んじまえ」


こんな暴言が返ってくるだけだ。

世間は、夢を見る人間が思う程甘くはない。生きていく為には死ぬ気で努力が必要。

そんな風に努力をしたって生き延びれない人間世の中には沢山いる。



誰かを思いやる心なんて、
この世界では誰一人持っていないだろう。

あんな地獄の施設を創る人間なんかに……。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ