ブック13
□万有引力<下心
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南国の島でも冬は寒い。
特に海辺では冷たい潮風に吹かれ、余計に寒く感じるのだ。
陽が高く昇った頃、ワンピースに薄手のカーディガンを羽織っただけの少女が海辺を歩いていた。
長い薄紅色の髪が潮風に吹かれ揺れる。
「ラクス」
「まあ、キラ」
少女を、未だあどけなさが残る青年が呼び止めた。
少し息を上げている彼をみとめ、少女は花が咲いたように微笑む。
青年がそっと彼女の細い腰に手を回し、二人で歩き出した。
―かの偉人は、林檎が木から落ちるのを見て「万有引力」を発見したという。
「“モノとモノの間には、引き合う力が生じる”ねぇ」
少女が淹れてくれた芳しいアップルティーを頂きながら、その光景をテラスから眺めるカリダ。
ピッタリと隙間なくラクスに引っ付く彼女の息子の表情はまるで締まりがなく。
万有引力は全てのモノに当てはまるという。
例えば鉛筆と消しゴム。月と地球。机と椅子。大地と空。
人と人が引かれ合うことも含まれるらしい。
だけど、カリダは思う。
キラとラクスのアレは、特にキラのほうは。
「アレはただの下心よね」
だらしなく緩んだキラの顔があまりに幸せそうで、カリダは一人ほくそ笑んだ。
万有引力<下心
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