ブック13
□無意識のゼロセンチ
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シュンという機械音に合わせて開かれる扉。
無機質でそれほど広くもない部屋のなか、ふわりと桜色の髪が舞う。
「キラ様」
ふんわりと微笑む様は、始めに抱いた印象―しゃぼん玉のように柔らかく、儚い―そのまま。
ラクス・クラインという名の大層な身分を持つらしい少女は、キラの姿をみとめ、腰掛けていたベットから立った。
嬉しそうに見つめられて、キラの胸は高鳴る。
「…えっと、どうしてるかなって。あの、僕、…ラクスさんの世話を任されてますから」
「ふふ、ピンクちゃんとお話をしてましたの。今日は何をしましょうか?って」
「何をするつもりだったんですか?」
「また展望デッキに行きましょう、と。でも、キラ様が来てくださいましたから、今日は中止ですわね」
「……」
(訪ねて良かった)
にこにこと笑顔で話すラクスに、キラは僅かに脱力する。
何度部屋にいてほしいと頼んでも、彼女は部屋を抜け出してしまう。それを毎回連れ戻すために苦労するのはキラなのだ。
「キラ様が来てくださって嬉しいですわ」
でもこの笑顔を見る度に、そんな苦労は不思議と消える。
この笑顔を見つけられた時、キラの心は嘘のように軽く、
そして温かくなるのだ。
ラクスは優しい。
同じコーディネイターだとか、そんな物は関係なく、本当に優しい人だ。
傍にいるととても楽で、居心地が良い。癒されているんだろう、と思う。
「あ、キラ様、どうぞ座ってくださいな。今日はなんのお話をしましょうか?ええっと…」
〈ハロー!ラークースー!〉
「あらあら、そうですわねぇ、ピンクちゃんとの出会いのお話をしてもよろしいですか?」
「…、はい…」
優しい音色が鼓膜を揺らす。
疲れた心と体が軽くなっていく。
「ピンクちゃんとは、2年のお付き合いになりますの。初めてお会いした時は、あまりの可愛さに時間が経つのも忘れて一緒に遊びました!
ピンクちゃんはアスランというわたくしのこんや」
「………すぅ…」
ことん、とラクスのむき出しの肩に軽く重みがかかる。
横を見れば、甘栗色が彼女の視界いっぱいに飛び込んできた。
「…キラ様…?」
直に感じてしまうキラの吐息に、ラクスは目を真ん丸にして戸惑う。
「おやすみになってらっしゃるのですか?」
返事はない。本当に眠ってしまっている。
キラはモビルスーツに乗り、戦場を駆けていると聞いた。疲れがピークに達してしまったのだろう。
〈ラクスー!〉
「いけませんよ、ピンクちゃん。静かにしましょうね」
パタパタと耳を開閉するペットロボットはラクスの注意を受け、静かに床を転がり始める。
「お利口さんですね」と笑いかけ、ラクスはキラの頭を一撫でした。
「おやすみなさい、キラ様。
良い夢が見れます様に、」
無意識のゼロセンチ
目覚めて、1ミリの隙間もなく彼女が近くにいた
(…っええぇぇえぇえぇぇ!?)
(おはようございます!)
。
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