ブック13
□夢の続きをくれたのは、あなただけだったよ
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夢、を見た。
光があふれる世界で僕は笑っていて、目の前には今まで出会ってきた大切な人たちがいる。
。
けれど、そのなかに彼女がいない。
いつだって微笑んで、僕に手を差しのべてくれる人。
「………ラクス」
「はい?」
うっすら意識が浮上すると、とたんに降ってきた柔らかな声。
「ラクス…?」
「はい、キラ。どうかなさいましたか?」
見上げると、首を傾げながらキラを覗き込む彼女の顔があった。
ぎゅうっと胸が締め付けられて、たまらず腕を伸ばす。
そのまま抱き寄せれば、キラの視界をラクスの薄紅色の髪が占める。
「…夢を見たんだ」
「まあ、どのような?」
「光があふれていて、皆が笑ってる夢」
「素敵な夢ですわ」
クスクス笑っているのだと、少しの振動から伝わる。
キラは何度も頭を振り、ラクスを強く抱き締めた。
「でも、君がどこにもいなかった…っ」
「まあ…」
「怖かった、不安で仕方なかった…!」
「でも、皆さんがいて、笑っておられたのでしょう?それだけで、十分素敵だと思いますわ。
…それに」
今にも泣いてしまいそうなキラの背中に、ラクスはそっと手を添える。
一向に緩まないキラの腕が少し息苦しい。
「そんなの、意味がないよ…っ」
「え?」
何か言おうとしたラクスを遮り、キラが嗚咽をもらす。
「僕にいてほしいと言ったのはラクスだよ。
だから、ラクスがいたから僕は今もここにいるんだ…っ。」
―“貴方にいてほしい、わたくしは…”
あの時もらったあの言葉がずっとキラを支え続けてきた。
例え自身の存在を否定されようと、いかに自分が無力であろうと、どんなに絶望しようと、
いつもラクスの言葉―込められた想いに守られてきた、救われてきたのだ。
そんなラクスが自分の世界にいないなんて、ありえない。
そんな世界はいらない。
「キラ…」
―ああ、彼が覚えてくれていたなんて…。
ラクスは自分の目頭が熱くなっていくのを感じた。
ゆっくり目を閉じて、添えるだけの手で強くキラを抱く。
「キラ、それはただの夢ですわ」
ただの夢。現実には起こらないものだ。
「わたくしはここにおります。ずっと貴方のそばに、おりますわ」
ほんの少しキラの腕が緩む。潤んだ瞳がラクスを見上げた。
「不安になることなんてありませんわ…。貴方がいてくださるから、わたくしもここにいるんですもの」
「ラクス…」
「さあ、夢から覚めてくださいな!」
にっこりと花が咲いたようにラクスが笑った。
夢の続きをくれたのは、あなただけだったよ
。
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