ブック13

□泣いて
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「僕はもう大丈夫だから」


そういって微笑んだ貴方を、
わたくしはなんて酷い人なんだろうと、そう思うのです。








暗殺部隊が全員自爆したことで幕を閉じた襲撃騒動。
無数のモビルアーマーの残骸の中にそびえ立つ白い機体を、ラクスは一人見上げていた。
むき出しの肩や腕はすっかり冷えて、いつも以上に白くなっている。


朝日を浴びて輝く白い機体。自由という名を持つそれは、ラクスには皮肉にしか思えなかった。

(あれはキラを縛るもの。
キラを戦いに駆り立てるもの。)



戦うことはつらい。
けれど、守れないことはもっとつらい。


彼はそう言って笑った。
辛いと言いながら泣きそうな顔で笑うのだ。

酷い。
ほんとうに酷い。


辛いと思うなら、笑わないでほしかった。
泣いてくれたら、顔を歪めてくれたなら、決してこの手を動かすことはなかったのに。

あんな風に笑われたら。




(キラを縛るのは、わたくしだ)



今も2年前も、あの機体を使ってキラを戦いに駆り立てるのはラクス自身。
キラがそれを望むから、なんて自分に都合のいい慰めでしかない。




冷たい頬に温かい涙が伝った。
キラを縛る自分が泣く資格なんてないのに、止めようとすればするほど、泉が湧いたようにあふれでてくる涙。

ラクスは堪らずに俯く。
パタパタと地面に涙が降る。



その時、背中が大きくて暖かいぬくもりに包まれた。
ラクスは目を見開く。

振り向かなくても分かる。
このぬくもりは、自分の身体にはもうよく馴染んだものだから。


「……キ、ラ…?」

「うん」


見なくても分かる。
きっと彼は、優しく微笑んでいる。

その優しさが心にしみる。
チリチリと痛みを伴う。



「なんで泣いてるの?」

「………っ」



(また貴方を戦わせてしまったことがつらいから)

そう言ってしまえば、恐らくキラはまた笑う。
泣くように笑って言うのだ。
「守りたいから戦うんだ」と。

いま、キラに笑ってほしくない。


「…キラはっ、なぜ泣かないのですかっ…?」


背中から、息を呑む気配がした。












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