ブック5

□手紙
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『―お元気ですか?


って、聞かなくても分かっちゃうくらいに貴方の名前を耳にします。』



可愛らしく整った文字が並んだ手紙。
便箋を開くと、花の香りがしていたけど、その香りは今はもうしない。


泣きながら何度も読み返した手紙はしわくちゃで、涙でできたシミのせいで、インクが薄れている部分がたくさんあって。



『ジノの活躍を聞かない日はありません。
それはとても喜ばしいけれど、でも少しだけ淋しく感じます。


最近、手紙を返してくれないですね。ねぇ、ちゃんと読んでくれてる?
忙しいのだから、仕方ないとは分かってるけど、でも、貴方からの手紙が欲しい。
ジノのこと、誰かから聞くんじゃなくて貴方から聞かせて欲しいの。』



この手紙を書いてる君の姿を思い浮かべては、胸に鈍く痛みが走るんだ。




『ごめんね、我が侭なこと言って。
わたしったらまだまだ子供で情けないですね。同じ年のジノはこんなに頑張ってるのに』




―あの頃、ナイトオブラウンズに入ってから毎日が忙しかった。
食べることも寝ることも出来ずに各地に赴き、トリスタンを駆けて。
君から手紙が何通か来てたけど、それを認めるだけで封を切ることはなかった。

後でいい、と思ってた。何通か無くしてしまったとしても、気にしなかった。君からの手紙は終わらないって思ってたから。




『あのね、ジノ。
どうしても伝えたいことがあるの。
最後まで、ちゃんと読んでね?』




君からの手紙のいくつかは、たくさんの書類に紛れて無くしてしまって
今、手元にあるのは、君がくれた最後の手紙だけ。


あんなにたくさんくれていたのに、封を切ることもなく、どこかへ消えてしまった君の文字。
取り戻すことなんて出来ないって、分かってから君の大事さに改めて気付いたんだ。




『エリア11の副総督になります。来週、コーネリアお姉様と一緒にあちらに渡るの。
自分から、お父様とお姉様に申し出ました。

自分にも何か出来ることがあるんじゃないか、て。大切な人がいた国を見てみたかったの。』




軍人になったのは、強くありたかったから。
強くありたかったのは、守りたいものがあったから。
守りたいものは、ユーフェミア、君だったのに。


いつから見失っていたのか。自分の心を、想いを。
見失いさえしなければ、君自身をきっと失わなかった。





『もうジノに手紙を書けなくなってしまうかもしれない。会えるかも、分からないから。
だから、言っちゃいます。



大好きです、ジノ。
ジノがいつまでも元気で、笑っていてくれることを願っています。
また会える時が来るのを信じてます。』










ポタリ。
また一つ、手紙にシミがついてしまった。




涙が止まらない。
君の笑顔が、もう見えない。
 












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