ブック5

□聞かせて
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「スザクが前に言ってた“昔分かってくれた人”って、ユーフェミア様?」


抑揚のない声で言われた言葉に、スザクは目を見開く。
自分に向かって、さらりとユーフェミアの名前を出されたからだ。

ユーフェミア。
ブリタニアの元皇女。とある大罪を犯したために皇籍から外されて、処刑された少女。
スザクは彼女の騎士だった。

世間で“虐殺皇女”、“魔女”と呼ばれて罵られている少女を、スザクは大切に思っている。

そんなスザクに対して、彼と彼女を知る者達は彼に向かってユーフェミアの話をすることは決してない。
スザクから彼女の話をすることはあっても、逆はなかった。あのロイドですら、彼女の名を口にするのを避けている。
それは自分を思うからこその、彼らなりの優しさなんだろう、とスザクは思う。



一拍置いて、スザクはアーニャに微笑んだ。


「…そうだけど。どうして?」


アーニャは携帯のデータフォルダを開き、一枚の写真をスザクに見せる。

そこには隣に並んで微笑み合う、かつての二人がいた。


「雑誌を読んでたらこの写真があったの。
貴方のこんな笑顔、始めてみたから」


―だから、直感でそう思った。
アーニャはそう言って携帯を閉じる。



「どんな方だったんだ?ユーフェミア様ってさ」


直後、肩にズシリと重さがかかった。
ソファー越しにスザクに抱き付いたジノが笑っている。


「あのさ、重いんだけど」


「クールなセブン様をあんなにデレデレに出来る人ってどんな方なのか知りたいな。なー、アーニャ?」


スザクの言葉を流して、ジノはアーニャを見る。いつもの無表情で、アーニャは頷いた。


そんな二人を一度睨みつけてみるが、すぐに諦めたように肩を落とす。



「………優しくて純粋な子だったよ。どこにでもいるような、普通の女の子だった」


スザクはポツリと呟いた。ジノとアーニャは黙って、スザクの言葉に耳を傾ける。



「“大好きな人の笑顔が見たい”って、僕に笑いかけてくれる人だった」


「へえ…いい子だったんだ」



スザクの頭に顎を乗せてジノが言った。スザクはそれに無言で頷く。


「大切な人だった?」


「とてもね。かけがえのない女性だから」



―死にたがりの自分に、初めて生きたいと思わせてくれた人だったんだ。

その言葉を飲み込んで、スザクはジノとアーニャを見た。


「二人はなんで僕の話を聞きたがるの?面白くもなんともないだろう?」


スザクの質問に、ジノは目を真ん丸にする。


「そんなの決まってんじゃん!」


「…うん」



ジノとアーニャは目を合わせて笑った。




「「スザクのことが知りたいから」」








二人の言葉に、スザクは目を見開いた。
目頭が熱くなって、泣きたくなる。


彼女の笑顔が浮かぶ。






「ねえ、ユフィ。
僕の話ばかりじゃなくて、君の話も言ってよ。僕の話なんて面白くもなんともないだろう?」


「あら、そんなことないですよ?

それにわたし、スザクのことが知りたいんです!



―だからもっと聞かせて下さい。貴方のことを教えてくださいね?」
 













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