ブック5

□今度は二人で
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「あれ」


小さな花束を大きな両手で持ち、ジノ・ヴァインベルグは目を丸くした。
彼がいるのは、とある少女の墓の前。

皇籍を外されてしまったために、立派な墓石は立てられず
彼女は守ろうとした国から憎まれてしまっているから、
彼女の墓だと分からないように誰も近付かないような静かな場所にひっそりとそこにある。

この墓の存在を知るものはごく僅かで、きっと片手で数えきれてしまう。


名前を口にすることさえ憚れるその少女、ユーフェミア。
墓石にその名前はない。彼女の場所を守るために。



ジノが目を丸くして驚いたのは、彼女の墓前に花が手向けられていたからだ。

ジノが持つ黄色や白い色の可愛らしい花とは違う、
真っ赤な色をしたバラが一本。



(わたし以外にもここに来る人間がいたのか…)


ユーフェミアが死んだと知って、何ヶ月か経つ。
誰にも知られる事なくひっそりと埋葬された彼女の居場所を突き止めるのに、ずいぶんと時間が過ぎてしまった。

あのバラを添えていった人間も自分と同じように、悲しみに崩れ落ちそうになりながら、この場所を探したのだろうか。
あのバラの送り主を思い、泣きたくなった。




「…久しぶり、ユーフェミア。わたし以外にも、君に会いに来てくれる人がいたんだね」


ジノはユーフェミアの墓の前で胡座をかき、笑顔を向ける。



「これからEUに出張なんだ。長くなりそうだから、今日これて良かった!それと…」



そのままジノは辺りが暗くなるまでひとり、ユーフェミアに延々と語りかけていた。













「ただいま!」


すっかり辺りが真っ暗になった頃に、ジノは帰ってきた。
携帯から目を外して、アーニャは「おかえり」と呟く。


その隣にどかっとジノは座り、広い部屋を見渡す。


「アーニャ、スザクは?」

「自分の部屋。明日に備えて、早めに寝るって」

「ふーん。相変わらず真面目だねぇ」



ジノは横目でこっそりアーニャの携帯を覗き込む。
今日の更新はなんの話題だろうか。



「……あれ?このバラ?」



携帯の画面に、真っ赤なバラが映っている。
たった一輪の、見覚えのあるバラが。

ジノの視線に気が付いたアーニャは、いつもの無表情で告げる。


「これ、スザクが持ってたの。プレゼントだって言ってた」


「!」




その言葉にジノは確信した。
あの花の送り主は枢木スザクなのだと。




ユーフェミアの騎士だった彼と、ジノはユーフェミアのことで話をしたことがなかった。

スザクはジノとユーフェミアが知り合いだったと知らないだろうし、ジノからユーフェミアの話をする勇気が出なかったのだ。




だから、彼がユーフェミアをどう思っているのか知らない。
彼とユーフェミアがどう出会い、どう過ごして、主従関係を結んだのか。
彼はどう思い、ユーフェミアを受け入れたのか、ユーフェミアを失ってどう思っているのか。



でも、あのバラはスザクがユーフェミアに送ったものだ。
それだけで、少しスザクとユーフェミアのことを分かれた気がする。
彼の思いを知った気がするのだ。



なんとなく、それが凄く嬉しかった。



「ジノ?」


「わたしも明日に備えて早く寝ようかな!」


「ふうん」


「アーニャもいつまでも起きてないで、早く寝るんだぞ?」


「…はいはい」




にっこり微笑んで、ジノは部屋を後にする。



(…EUから戻ったら、今度はスザクも誘おう)





二人で行ったほうが、きっとユーフェミアは喜んでくれる。






(わたし達がもっと仲良くなれたら、きっとあの子はもっと笑ってくれる)










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