ブック3
□彼と彼女の叶わなかった恋 前編
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街の外れにある小高い丘には、大きな桜の木がある。
かつては、無邪気に笑う子ども達の声で溢れていた其処は、今では誰も寄り付かない。
「静かな所ですのねぇ。」
鈴のような、可愛らしい声。風に吹かれてなびく薄紅色の長い髪。
―…可愛い…―
その言葉がよく似合う少女が一人、桜の木の下に立っていた。
「ここがおばあ様の約束の場所…。」
小さな頃からずっと行きたいと思っていた場所に来て、少女―ラクスはそっと胸に手を当てた。
幹に体を預け、目を閉じながら、天国に行ってしまった祖母に想いを馳る。
…―パキ
枝が折れる音。
閉じていた目を開いて、音のしたほうへ体を向ける。
そこには、同い年くらいの少年が立っていた。
ラクスは、その少年に微笑みかける。
「…こんにちは。」
少年の紫の瞳が大きく開かれた。
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