ブック5
□覚悟はない
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「なあ、お前って“死ぬ覚悟”持ってんのか?」
ピッとフォークをスザクに向けて、ジノは真剣な眼差しでそう問う。
問われた側のスザクは目をきょとんとさせ、首をかしげた。
「なに?いきなり」
問い返されたジノは眉間にシワを作る。
「お前の強さや戦いっぷりって、いつも関心するけど、なんか“皇帝のために”って気持ちが薄い気がするんだよ」
「え……」
「【ナイト・オブ・ラウンズ】は皇帝直属の騎士だ。皇帝のために戦い、皇帝のために死ぬという忠誠心がなきゃ駄目だろう。
でも、スザクからそれを感じない。」
スザクに向けていたフォークを、サラダにさす。
ジノは首をかしげながら、言葉を続けた。
「スザクは“死ぬ”より“生きたい”って気持ちのほうがずっと強い…気がする」
「…半分アタリで半分ハズレ、かな」
スザクは苦笑しながら、スープを口に運ぶ。
「ジノの言う通り、僕は皇帝のために死ぬ気なんて全くないよ」
それ、まずくない?と思うが、ジノは黙ってスザクの言葉を待つ。
「今、僕は生きたい。
アイツを殺すために」
たちまち、先程まで穏やかだった緑色の瞳が鋭く光る。
「アイツを殺すまで、僕は死なない。死ねない。
例え皇帝が僕に死ねと命じても、それには従わない」
強い決意と憎悪が入り混じる瞳。
スザクのそんな瞳をジノはあまり見たことがない。
「でも、アイツさえ殺せたら、僕はいつ死んでも良いんだ」
ふ、と鋭く光る瞳が、いつものように穏やかな色を取り戻した。
「ああ、でもやっぱりそれは“皇帝のために死ねる覚悟”とか、そんな立派なことではなくて
僕がただの死にたがりだからだけど」
―だって、生きたいと思わせてくれた彼女はもういない
僕は彼女の隣で生きたかったのに…。
だから、もう生きる理由なんてない。
さっさと死んでしまいたい。
でもまだこうして必死に生きて来たのは、
どうしても許せない存在があるから。
それを消さない限り、自分の納得がいかないんだ。
不敵に笑うスザクに
ジノは嘆息する。
「お前って、変なやつ」
「うん、自覚はしてる」
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