ブック13

□そうじゃない!
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「ただいま戻りましたー」



愛しい少女の帰宅を告げる声に、キラは嬉しさを隠しきれずにソファーから立ち上がって玄関に駆け出した。

おかえり、と口付けて・手を取って・華奢な腰を抱いて・早く少女との甘く穏やかな時間を堪能したい。
キラは上機嫌で少女を迎えようと、口を開いた。



「ラクス!おか、え、り…」



出た言葉は、徐々に小さく固くなった。
頬がひきつるのが分かる。

そんなキラの様子に気付かず、ラクスは出迎えてくれたキラに花が咲いたような笑顔を見せた。



「ただいまですわ、キラ」


「…ねぇ、ラクス。その、花束はもしかして…」



プルプルと震える指で指したのは、ラクスの腕の中にある、真っ赤な、真っ赤なバラの花束。
大輪を咲かせて輝くそれに負けないくらい綺麗な笑顔で、ラクスは微笑む。



「ええ、お買い物をしてましたら、頂きましたの!」


「……………」



キラは愕然と床に手を付いた。


(また…っ!!)






ラクスと地球に降りて少し経った頃、気付いたことがある。

買い出しは基本的にキラやラクス、カリダや子供達と大人数で行く。
だがたまに所用でラクス一人で行くことがあるのだ。

そんなとき決まって、ラクスは何かしらの花束を持って帰ってくる。
初めは、ラクスが買って来ているのだと思っていた。

けれど、彼女と共に街に出た時。



『ずっと素敵だなと思ってたました!これ、受け取って下さい!』

『まあ、ありがとうございます』

『(へ?)』


顔を赤くした、明らかにラクスに好意を示す男から花束を差し出されたラクスは、にっこり微笑んで花束を受け取った。


『綺麗なお花ですね。大切にしますわ』

『!ありがとうございます!』

『(ええー!?)』




ラクスは、好意をそのまま受け取ってしまう、らしい。


プラントでは人気の歌姫だったというラクス。花束をはじめとした、プレゼントや手紙をもらうことはしょっちゅうだったので、同性はもちろん、異性の好意を当たり前に受け入れてしまうのだ。


歌姫としてのラクス・クラインを知らないキラはそれが面白くなくて。


『なんで男からのプレゼントを受け取るの?』

『昔から頂いてましたもの』


笑顔でさらっと言われたり。


『あれは!
君に好意を持ってるから渡して来てるって分かってる!?』

『まあ、キラ!そのくらい分かってます。好意がなければプレゼントなどお渡しになりませんもの』

『分かってるんなら、受け取らないでよ!』

『?なぜいけないのですか?』

『それは…っ!』



言えなかった。
なんだか小さい男に見られそうな気がして、言えなかった。







その後もラクスは、花束や何かしらのプレゼントをもらっては帰って来ている。今日のように。




「良い香りですわねー」



おかえり、と口付けて・手を取って・華奢な腰を抱くことに失敗したキラは、楽しそうにバラの花束を花瓶に移すラクスをソファーから恨めしく見つめた。


そんなキラの視線に気付いたのか、ラクスは居心地悪そうに苦笑する。



「…もう、キラ。いつまでそうしてるおつもりですか?」

「………なにが?」



完全に口を尖らせるキラ。

ラクスは軽くため息をついて、はた、と目を輝かせた。



「わかりました!!」



ぽん!と手を合わせて、ラクスが笑う。

そんなラクスに、キラはやっと自分のこの気持ちを分かってくれたのかと腰を浮かせた。



と、その時。



「はいっ」



すっ、とキラの耳に何かがかけられた。



「へっ?」


「お裾分けです!」



耳にある何かに手を触れると、かさり、と音がする。
わずかに鼻孔に届く匂いにキラは目を見開いた。



「…ラクス…?」


「ふふ、そうですわね。わたくしばかりがもらってばかりでは面白くありませんものね」


「…いや、ラクスさん…」


「これからは、何かをもらいましたら、キラにもお裾分けしますね!」



にこにこ、にこにこと可愛らしいラクスの笑顔にキラは泣きたくなった。

ラクスはどこからか鏡を取りだし、キラに向ける。



「可愛いですわ、キラ!よくお似合いです!」





ラクスが見せた鏡の中には、耳にバラの花をかけたキラの姿が映っていた。















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