ブック13
□おと な り
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鉄が当たる、音
―ちりん、ちりん
気だるい体を布団に潜り込ませた所に聞こえてきたそれは、
鈴のように軽く、不思議に澄んだ優しい音。
涼やかな音を聴きながら、キラはそっと目を閉じて、穏やかな眠りに就いていく。
キラの住むアパートは古く、木造ではないが壁にはツタが絡まり少し寂れた印象がある。
しかし、どこかモダンな雰囲気と、円い暖かみを感じさせる小窓、以前から知っていたような、親近感があるこの部屋をキラはとても気に入っていた。
それと。
最近、越して来たと思われるお隣さん。
きっとドアベルなのだろう。
その人が玄関を出入りする度に聞こえてくる涼やかな鉄の音が、不思議とキラの心を癒してくれる。
なんの音かは分からない、けれどどこかで聴いたことがあるような、透明な音色。
仕事に追われ、疲れきった生活を送るキラにとって唯一、安らぎを感じさてくれた。
おと な り
(その音が、とても好きでした)
。
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