ブック5

□灯火
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掌の上でゆらゆら揺れる橙の灯。

(―…ああ、まるで君のようだ)















『等しく優しい世界を』


ユフィの意思を継ぐ。
そう言って「行政特区」をナナリーは高らかに宣言し、スザクはそれを支えている。



(なあ、ナナリー。それは違うんだよ)




「行政特区日本」は確かにユーフェミアがイレブンを思って発案した優しい世界だった。
誰にも等しく優しい、温かな世界を、と。


だけど、本当に彼女が心の底で願っていたことは。



(ユフィが願っていたのは、俺とナナリーの平和だったんだよ)




俺とナナリーに、ずっと一緒にいられる優しい世界を。笑顔でいられるための、暖かな世界を。


ナナリーのためよ、と彼女は微笑んだ。




そのための「行政特区日本」。
そこに俺とお前がいなくては、ユフィの願いは叶わない。








その真実を知っているのは、きっと俺だけ。
ユフィの騎士だったスザクだって、たぶん知らないんだろう。






(なあ、ユフィ。
最初は君の意思を継ごうって、思ってたんだ)
 



ナナリーを取り戻し、「行政特区日本」に変わる、俺とナナリーがずっと一緒に、笑顔でいられる世界を目指していた。



(でも、

でも………気付いてしまったんだ)







もう、「ゼロ」はナナリーだけのためのゼロではないということを。


ナナリーだけのためのゼロではいられない、ということを。








「君!
このあと、皇族の方が来られるから、黙祷が済んだら早く帰りなさい」



「あ…、はい」





掌の上の蝋燭を水面に浮かべる。
ユーフェミア、と書かれた薄紅色の蝋燭が
たくさんの蝋燭の中に紛れていく。



ゆらゆら、灯が揺れている。





本当に大事なものは何も失っていない、と
君は言った。




それに比べて、俺は、どけだけ大事なものを失って来たのだろう。


ナナリーも、スザクも、俺自身も。






(ごめんな、ユフィ)





せっかく君が、俺たちを守ろうとしてくれたのに。
優しくありますように、と俺たちに願ってくれたのに。






俺は、君の願いを叶えられない。





ナナリーの傍には
もういられないし、帰れない。





だから。
 






「…さようなら……」





君の想いに、区切りを。

















end.
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