gift book

□アネモネ
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「小娘」


藩邸の中庭を掃いてる最中だった。
この時間にしては珍しい人の声に振り返る。


「…大久保さん!」

「ふん、見返り美人…とは言えぬ間抜け面だな」

「……………」


……前から思っていたけど、この人は嫌みを語らせたら日本一だ。
わたしはひとつ溜め息を吐いて、一時停止した腕を再起動させる。


「全く…こんな時間に珍しいと思えば。わたしにわざわざそんな事を言うために来たんですか?」

「……おや」


苛立ちながら返すと、彼は心外だとでも言いたげな表情をする。


「……おい、小娘。今日は何の日だ」

「何の日って……」


尋ねられ、ふと日にちを思い出す。
……………。
………………。
………………あ。


「…一月、」

「二十二、……だな?」

「…はい」


小さく頷くわたしを見て意地悪く微笑する彼に、上から目線で釘刺される。

………悔しいけど、この人には適わない。

だって、今日は……。


「――…そういうわけだ、掃き方が終わったら私の書斎に来るように」


洋装でスマートに身を翻す。その時、わたしは目を疑った。思わず箒を落としそうになる。


――…態とらしい彼の右手には、一輪の花が。


「――大久保さん、それ」

「…偶々珍しい花を見かけたのだ、私も珍しく気分が良いからお前にくれてやる」


…大久保さん、それ嘘でしょ?
この花の名前、わたしもよく知ってるもの。


「…ありがとうございます」


敢えて、ただ一言返す。
彼は口端を持ち上げて去っていった。


背中が見えなくなった後でひっそりと、赤い花を胸に寄せた。


アネモネ。花言葉は「君を愛す」。
一度調べた事があるんだ。自分の誕生花。


珍しい人からの珍しいバースデープレゼントだった。





『アネモネ』(Happy Birthday,my sugar!)





◇◆
1/22お誕生日の葵さんへ。
アネモネは3〜4月に咲く花のようですが、そこは大久保さんmagicという事で勘弁してください…!おめでとうございます!
by瀧澤

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