Sing

□朝寝
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―――……夢を見た。

………というか。

寝てるとき、傍に誰かの温もりがある気がして。

あったかいその人の大きな手がわたしの髪を優しく梳いて。

ふわふわして、とても気持ち良い。





……………この人は、誰?





「……め、…」


…………ん?

一瞬目を開けて、また閉じた。
まだ辺りは暗かったから。起きる時間じゃない………よね。
誰かの声が聞こえた気がするけど、眠すぎて瞼が上がらない。

まどろみの中、二度目の眠りに落ちようとした時だった。


「………小娘」

「!」


耳元で直接響かされた低い声に身を縮こませた。


「…全く」


愉快ゆかいとわたしを見下ろしたその人は、くっくと喉を鳴らして笑っていた。


「…お、おおお大久保さん…!?」


何で彼がここに居るのか、そしてわたしが居る場所が一体どこなのか…。
布団も敷かれていないそこは至って普通の畳の上だった。
先程より白んだ朝の光が少しだけ差し込み、周りの様子が目に入ってくる。目覚めたわたしの真上にある天井には見覚えがない。

目を擦りながら腕を組み胡座をかいている大久保さんに向かい合い座る。

「あの………ここは」

「私の部屋だ」

「…………えっ」


しれと応えた彼は、わたしの反応にまた口端を上げた。

……余程わたし、酷い顔しているのかな…。

寝起きの姿が気になり、髪やら襟やら一通り正して座り直した。
よりによって大久保さんに寝起きの顔を見られるなんて。
恥ずかしくて、背けるように顔を隠した。


「小娘、今更何を恥じらう?」


可笑しそうに声音を上げた彼の手がわたしの顎を掴み、ぐいと正面を向かされる。


「……夕べお前は」


低い声に痺れて、堪らず目を瞑る。
声を発する度に体中が緊張で固くなる。


「この部屋で…」

「…っ」


一言紡ぐ毎に熱くなる吐息。首筋にかかると、擽ったさに変な声が出そうになる。


「…私を挑発した」

「……挑発?」


身に覚えが無い。
構わず、大久保さんは続けた。


「………この口が」

「!?」


不意に唇を指がなぞる。
再び目を開けた途端、近付けられた顔が鼻の先まで迫った。


「この口が…」

「お、お、く、ぼ、さん……?」

尚も触れられたままの唇をぎこちなく動かす。
ふ、と口元が緩んだのが見えた。


「………ははは」

「………?」


急に大久保さんが笑い出す。わたしはわけが解らず、ただ首を傾げて可笑しそうに声を上げる彼を見つめた。


「……は、愉快、愉快」

「………ゆかい?」


オウム返しに尋ねれば、「今の顔」と答えが返る。


「……昨夜は随分激しく酔っ払ったな」

「………酔っ払った?」

「…まぁ、お前に酒酌みさせたのがそもそもの間違いだったな…」


そこは反省しよう。


珍しく反省、と口にした大久保さんを訝しく思い、傾げて瞬きして見せる。
わたしを見下ろしていた彼の手によって体を起こされて、「私を挑発する女子はお前くらいのものだ」とまた笑われた。


「まったく…酒が呑めないなら呑めないと素直に答えておけば良いものを…――」



◇◆◇

――……大久保さん、そのお酒美味しいんですか?

『……小娘も呑むか?』

いっいえ、わたしは…。

『何だ、つまらん。……どんな銘酒でも、独りで呑む酒はあまり美味くはないものだな』

………………。

『………小娘、私に手酌させる気か?』

!あ、すいませんっ。……………あの、大久保さん。

『なんだ』

……一口、呑ませてください。

『………………呑めるのか…?』

……わたしがお相手します。

『……小娘…』

……頂きます。……。

『…!お、おい小娘』

…………………………………。

『お前……その酒は』

……………………………………………………………。

『相当強い筈だぞ……そんなに呑めるのか…?』

……………………………………………………………………ぷはっ。

『!』

……しょうぶしましょう!

『……は?勝負?………お前、酔って…』

…わたしと、おさけでしょうぶしてください!

『………何故』

もし、わたしがかったら…………………―――

◇◆◇




「――それから、私の言葉も聞かずに酒を仰ぎ続け……」


大久保さんは思い出すように斜め上を見ながら眉尻を下げて呆れたように深く息を吐いた。


「酔い潰れてこの私に介抱させたのだ」

「う………」


今大久保さん、「このわ・た・しに」ってかなり主張してたな…。
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