gift for me

□眼鏡
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「・・・それがどうかしたか?」

「あのっ・・・これ、どう見えてます?」

「はぁ?ただの丸だろ?なにを聞いてるんだ、お前は?」


土方さんが不機嫌そうに発する質問の連打に、私と沖田さんは目をあわせる。


「土方さん、あれ、丸に見えるんですか?」

「・・・」


自分はなにか間違ったことを言ってしまったのかという表情を、一瞬、土方さんが浮かべるのを私は見てしまった。
私はさらに紙を数回転させ彼に見せるが、土方さんは紙を見たまま、眉間の皺がさらに深くなっていく。
私は1歩、前進して、もういちど土方さんに問い直す。


「土方さん、これ、どのように見えますか?」

「!・・・下が切れてる丸だ・・・。」


土方さんが悔しそうに呻く。ああ、やっぱり・・・この人は・・・。
私は数回検査を繰り返し、土方さんに宣告する。


「土方さん。あなたは【近眼】ですね。」

「近眼ってなんだ?」

「近くは普通に見えるんですけど、遠くが見難くなる目の病気です。」


衝撃、という題の彫刻があるとしたらこんなかんじの彫像になるんだろうなぁと、なんだか見当違いのことを思いながら、すごくショックを受けている土方さんの顔を見やる。

無理もない。健康そのものと思っていたところに、突然病気だなどと宣言されたのだから。
対する沖田さんは、すごく楽しそうだ。わくわくしながら、こちらに質問してくる。


「へぇ?そんな病気があるんだ。具体的にはどんなかんじなの?」

「例えば、、、店先にぶら下げられてる提灯に書かれた店の名前が見えないとか、、、」

「!」

「ああ、そういうことはありそうだねぇ。他にはどう?」

「月を見ると、いつでも満月に見える、だとか・・・」

「!!」

「へぇ。近眼の人は、いつでもお月見ができるんだねぇ。そりゃあ、いいや。」

「他人の顔の、目と鼻と口があることはわかるんですけど、タレ目が釣り目かはわからなかったりするから、道で知り合いとすれ違っても気付かなくて、あとで因縁をつけられたり・・・」

「!!!」

「あはは、なぁにそれ?やけに具体的で、実際にあったような口ぶりじゃん。」

「あ、はははは・・・。実際にあったんですよ・・・。」

「あれ、りりちゃんも近眼なの?」

「・・・そうなんです。」


藪から棒に、私の視力までバレてしまい、思わず苦笑してしまう。


「でも、それじゃあ、いろいろ不便でしょ?」

「普段の生活にはあまり支障はない程度なんで、だいじょうぶですし、それに・・・」


と言いかけたところで、土方さんが、私のすぐそばで叫ぶ。


「それにっ?!」

「!」

「やだなぁ、土方さん。そんなにりりちゃんに迫って、告白でもするんですかぁ?」

「そ、、、そんなわけねぇだろ!」

「あははははっ。土方さんとは付き合い長いですけど、そんな顔、初めて見ましたよっ。こりゃ、明日は雪だな。」

「そ・・・総司っ!!!」


大笑いしながら部屋から逃げる沖田さんを見送り、はぁ・・・とため息をついて、土方さんがこちらを見返る。


「悪かったな、、、。で、それに、なんだって?」

「ここぞというときには、眼鏡を使っているんです。」

「めがね・・・。」

「あ、、、その、現代には眼鏡ってものが普及しているんです。」

「今の時代にも眼鏡はある。が、、、あんなん買えるのは、大名ぐれぇだな。」

「高いんですか?」

「そうだな、、、。」


会話が少し途切れた間を縫って、私が声をあげる。


「あ、あのっ、ちょっと、待っててくださいっ!」

「あ、、、おいっ?」


土方さんの返事も聞かず、私は全速力で部屋に舞い戻り、スクバを持って土方さんのもとに戻る。彼の目の前でスクバを漁って、小箱を取り出す。


「これっ、、、これをつけてみてください。」

「・・・これ、は?」

「眼鏡です。さっきの検査で、土方さんと私の視力は似たかんじだと思ったんで、たぶん、その眼鏡をかければ、それなりに見えるようになると思います。」


土方さんは、差し出された小箱をじっと眺め、私の顔とを見比べる。
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