エピローグ後でびっくりする程捏造なので適当に軽く読んで下さい。
エピローグの白蘭さんが未来白蘭さんで生きてた設定です。
白蘭は倒された。
未来は確かな平和を取り戻した。
その、はずだったのに。
「く、そ…、何でっ…」
執務室。
綱吉は苦しげに表情を歪めて、椅子に座ったまま一人静かに自分を慰めていた。
体を隠す様に机にしがみ付いて、必死に手を動かして己を上下に扱き上げる。
部屋に鍵は付いていない。
時折廊下から聞こえてくる足音に、心臓が跳ね上がる。
けれど、どうしても止められなかった。
「も…くるし…っ」
悔しくて堪らないのに。
こんなことをしている自分が、嫌で堪らないなのに。
苦しい程に、治まらない熱。
執務に支障をきたす程に、疼き続ける体。
原因は、もう解っている。
「びゃく、らん…っ」
その原因の名を呟きながら、綱吉は達した。
ぽたた、と床が白いもので汚れていくのを、射精感で虚ろな瞳で見つめる。
熱を出したはずなのに。
手の中のものはすぐにまた、熱を取り戻し始める。
疼きの止まらない体。
「く、そっ…!」
机に拳を叩きつけて、唇を噛み締める。
仕舞いには息が乱れて震え始めた体を掻き抱き、綱吉は着衣の乱れを直して部屋を飛び出していた。
ボスである綱吉のリングでのみ開く扉。
それを開いて中に入り、扉が再び閉まるのを確認してから、綱吉はゆっくりと降りていく。
隠された地下牢へと続く階段を。
「そろそろ、来る頃だと思ってたよ」
声がする。
その声を聞いただけで腰が砕けて崩れ落ちそうになるのを、懸命に堪えた。
鼓動の速度が上がって、体は溶けてしまいそうな程に熱くなっていく。
「綱吉クン」
地下牢の鉄柵越しに自分を捕らえる、紫色の瞳。
息が乱れて、背筋は震えた。
もう逃げられない。
「…おいで」
柵の中から伸ばされてくる腕。
自分を招く指。
その声で呼ばれたら、逆らえない。
いや、逆らうことを知らなかった。
「白蘭…っ!」
体が心が、この男を求めている。
焦る手付きで鍵を開け、綱吉は自ら牢獄に入れた男の腕の中に飛び込んだ。
甘いものなど与えていない筈なのに、いつもひどく甘い香りがする。
けれどその香りは、綱吉に絶対の安堵を与えた。
たったこれだけで、気付けば体の疼きが治まって体が軽くなっている。
「今回はたった1日しか我慢出来なかったんだ?あはは、少しずつ日が浅くなってきてるみたいだね?」
胸に顔を埋めて縋ってくる綱吉の髪を優しく撫で、白蘭は笑った。
まさか昨日来て我慢出来ずに、今日も来るなんて。
以前は余裕で一週間は我慢していたというのに、確実に縮まっていく時間。
まるで麻薬のように。
じわじわと綱吉を侵食して大きくなっていく自分の存在が、嬉しかった。
「あの海の見える牢獄、結構好きだったのにさ。君があの距離じゃ我慢出来なくて、僕をこんな暗い牢獄に呼び寄せた」
「…っ、」
それは真実だから、何も言い返せない。
周りの反対を押し切り、適当な理由を付けて白蘭をこの敷地内に呼び寄せたのは綱吉自身だ。
本当は、白蘭の言う通り、ただ我慢が利かなかっただけだった。
もっと白蘭の傍にいたい、すぐに会える距離にいたい。
どうしても、心の奥底から沸く欲求を抑え切れなかった。
そしてそれが日に日に強く、大きくなっていくことも。
白蘭がそんな綱吉の頬をそっと手の平で包んで、顔を上げさせる。
「ダメなんだよ…もう、体が、オレの言うことをきかないんだ!…こうしてお前に触れないと、バランスがっ…」
白蘭と視線を合わせた綱吉が、泣きそうに掠れた声を上げた。
白蘭を掴む指も、不安げに小さく震えている。
その手を握って、白蘭は声を上げて笑った。
何を当たり前のことを言っているのかと笑った。
「そんなの当然の事だよ?だって、沢田綱吉。君は、疾うに僕のものなんだからさ」
そう、もう既に調教は完璧に終わっていた。
未来に来た少年の綱吉に甘い言葉をかけて近付き、子供は知らない大人の駆け引きを充分に使って、綱吉に恋心を抱かせた。
そうすれば体を繋ぐことなど簡単で、感受性豊かなまだ幼い体に、未知の快感をたっぷりと教え込んでやった。
自分の味を、匂いを、全てを。
決して消えないように漬け込んで、刷り込んだ。
けれどそれでも、運命には逆らえ切れなかった。
綱吉は世界の平和を。
白蘭は世界の破壊を。
互いに反対の道を選ぶことしか出来ずに、決別した。
結果、涙ながらに全力でぶつかってきた綱吉に、白蘭は敗北した。
新世界も自由も失ったけれど、白蘭は微笑んだ。
最初は単なる興味だけだったのに、何時の間にか新世界と同じ程に欲していた綱吉を、こうして手に入れることが出来たのだから。
「何で…白蘭っ、」
白蘭を忘れることなく、綱吉は現代へと帰っていった。
そして、その綱吉が成長した結果が、この目の前にいる愛おしいものだ。
自分の手で滅ぼして、自分の意思で幽閉したというのに。
絶対に、触れてはいけないはずなのに。
結局、こうして忘れることが出来ずに求めることしか出来ない。
哀れで、でもたまらなく愛おしくて。
白蘭は綱吉に嵌められた足枷を引きずりながら、腕の中の温かく柔らかなものを強く強く抱き締めた。
「新世界を失った今、僕の世界は君だけなんだよ…綱吉クン」
「やめろ、そんなことっ…」
言わないで。
甘い声で囁かれるほど。
強く抱き締められるほど。
あの頃を思い出して、白蘭から離れることが出来なくなっていくから。
白蘭は調教だなんて口悪く言うけれど、本当は、違ったことを知っている。
そこにあったのは、確かに、温かくて美しく輝くもの。
「君だけが、僕の世界」
「やめろっ!もう…何も、言うな、よ…っ」
言葉では必死に拒絶しながらも、綱吉は決して、白蘭から離れようとしなかった。
むしろ苦しいほどに、きつく抱き返してくるあの頃と変わらぬ細い腕。
少しずつ、少しずつ戻ってくる光。
その温もりを感じて、凍らせた世界が溶けていく。
「……うそ、なんだ…ごめん…ホントは、もっと、もっと言って欲しいんだ…」
耳元で小さく呟かれた言葉。
そんなの知ってるよ返しながら、さっきの言葉を前言撤回しなければいけないと白蘭は微笑んだ。
ずっと求めてきた新世界は、まだ、失われてなどいなかった。
ここが、2人だけの新世界。
「君に出会った時から、僕は君だけのものだったんだよ。ねぇ…知ってた?綱吉クン」