*過去拍手話

□Dr.オニオン
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「か〜ら〜す〜なぜ泣くの〜♪」


夕焼けの道を歩く。
俺と井上。
それから、
俺の手に大量の玉ねぎ。






*Dr.オニオン





「黒崎くん、玉ねぎ好き?」
「は?玉ねぎ?」
「遊子ちゃん達も好きかなぁ?」


井上を食事に誘えと、家族から半ば強制的に与えられた任務遂行のために訪れた井上の家。
それはもう、満面の笑みで了解してくれて、それじゃあ行こうかと部屋を出ようとした時にいきなりのこの質問。

いきなり玉ねぎかと、つっこみたいとこだけど、
その顔があまりにも真剣だったからとりあえず考えてみた、けど。


「・・・玉ねぎ単体で聞かれてもなぁ」
「あのね?おばさんにいっぱい貰ったの。だから黒崎くん達にお裾分けしようかなって」
「いいのか?」
「うん。でも、いきなり玉ねぎもらっても遊子ちゃん困っちゃうかなぁ」
「いや喜ぶと思うぞ?」
「本当?じゃあ持ってくるね!」


玉ねぎを好きかどうかは置いといて。
最近遊子が野菜が高いと嘆いてるし、荷物持ち係りとして一緒にスーパーに行けば同じ物を2つ手にとってどちらがより安いかを悩んでるし。
決してシスコンではないつもりだけど、我ながら出来た妹だと感心する。
タダで貰えるなんて、多分喜ぶと思う。
というか、井上から貰える物は何でも喜ぶと思う。
遊子も夏梨も、ムカつくけど親父も井上のことが好きだ。
逆に井上も、俺が妬いてしまうくらいにうちの家族のことを大切に思ってくれてるし。
家族に妬くなよ俺って話だけど。



「はいどうぞ!」
「うぉっ!」



ズシリと右手が重たくなる。
犯人は確認するまでもなく大量の玉ねぎ達・・・。
それにしても、これは多すぎないか?


「こんなに貰っていいのか?」
「うん、だってまだまだいっぱいあるから」


そう言って井上が指を差した方を見ると、段ボールに玉ねぎがてんこ盛りになっていた。
・・・あれは確かに多いな。


「んじゃ、行くか?」
「うん!」








すでに夕焼けの道を、2人並んで歩く。
俺の右手に玉ねぎ、左手に井上。
家に着けば井上は家族にとられてしまうから、こんな風に二人で過ごせる時間はきっとない。
足取りをゆっくりにするのはせめてもの抵抗。


「玉ねぎ、良い匂いだね」
「そうだな」
「食欲を誘う匂いだよね!」
「だな」
「誘惑上手ですな!」
「なんだそれ」


袋に山盛りに入っているせいか、軽く息を吸っただけでも匂いを感じる。
確かに食欲を誘われて、井上の言う誘惑もあながち間違ってない気がして妙に笑える。


「玉ねぎって、カウンセラーの先生みたいだよね」
「はぁ?」
「だってね、泣くつもりじゃないのに、絶対泣いちゃうでしょ?」
「目が痛いからだろ」
「それにね、泣いてたと思ったらお腹が空いて元気になるし!」
「そりゃ匂いのせいだろ」
「泣かせてくれたり元気にしてくれたり、カウンセラーの先生みたいだよね!」


何をまた子どもみたいなことをと笑ってやろうと思ったけど、
井上が「いつもお世話になってます」なんて言って俺の右手を覗き込む。
それを見てたら、なんだろう?
こうふつふつと沸き上がる黒いもの。
チクチクと小さく痛む胸。



「すごいですなぁ〜、玉ねぎ先生は!」




あぁ、そういうことか。




「井上」
「は〜い」



俺は生憎外科志望で、心理学なんてとってないけど。
カウンセラーの先生みたいに、うまいこと話を聞くなんて出来ないけど。



「俺、玉ねぎ先生には負けねぇから」



お前が泣いたり、笑ったり出来る場所は絶対俺がなるって決めてるから。
覚悟しとけよ?



当の本人といえば、
「そうだね!黒崎くんは将来有望なお医者さまだもんね!」
なんて、わかっているのかいないのか。



「お兄ちゃん、織姫ちゃん、おかえり!」
「織っ姫ちゃーん!会いたかったよ〜!!お父さんにただいまのチューを・・・ブハァ!!」
「織姫ちゃんに近づくなヒゲ!」





まぁとりあえず、
今はこうして隣で笑ってくれているからいいか。








「お兄ちゃーん、織姫ちゃんから貰った玉ねぎせっかくだから使おうと思うんだけど、何したらいいと思う?」
「・・・粉々にみじん切りにしてしまえ」





玉ねぎにまで嫉妬か俺・・・。









*2011.06.29
I am a doctor under contract
to you!!


 

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