*過去拍手話A

□HOME SWEET HOME〜first road〜
2ページ/3ページ








その頃の一路は・・・。







「おっべんと〜おっべんと〜♪」






お弁当が入ってるだろう袋を胸に抱えて、小さな歩幅でスキップをしていく一路。






俺が着いたときには、一路はやっと商店街の半分まで辿り着いたところだった。
織姫は、ルキアと乱菊さんが見ててくれるって言ってたけど、俺の目が確かなら某テレビ番組並みに他の連中も変装している気がすんだけど・・・。






一路の隣を陣取って歩くあの黒猫は、どう考えても夜一さんだよな・・。
電線工事の人に変装した恋次と白哉・・・、買い物帰りの主婦に扮したルキアと乱菊さん・・・、小学生の格好した冬獅郎・・・、浦原さんは何故かそのままで、極めつけはドン・観音寺に化けたヒゲだるま・・・。
いや、逆に目立つだろそれ!
病院をほったらかしにしてきた俺が言える立場じゃねぇけど、お前らマジで仕事しろ!
つか、全員片手に持ったカメラは何に使うつもりなんだ。






「おやぁ〜♪そこの可愛いぼく?おつかいっすか〜?」






相変わらず下駄の音をカラカラと鳴らして一路に近付く浦原さん・・・って、話しかけるのかよ!






「こんにちは!あのね、とーちゃんのところまでおべんととどけにいくの!」
「それはえらいっすね〜♪頑張ってくださいね〜」






バレたらどうすんだよっ。
某テレビ番組でもそこまでやってねぇだろ!






そのあとも、何故か次々と一路に近付いては話しかけていく尸魂界の連中・・・。






「弁当か〜!小さいのに偉いな!いちっ・・・おとーさんも喜ぶな!頑張れよっ」
「・・・・・・」




恋次、特に面識あるんだから、せめてそのトレードマークの赤髪をしっかり隠しとけよ・・。
つーか、何気に俺の名前を呼ぼうとしてんじゃねぇよ!
もうそれ以上喋るなよ!絶対ボロが出る!
それに引き替え白哉・・・、お前は一言くらいなんか言えよ・・。
黙って見下ろしてたら怪しいだろって・・・。






「使いか?」
「うん!あ、お兄ちゃん!はい、1つわけてあげる!」
「・・・・・」




冬獅郎は、逆に一路からキャンディーを分け与えられてたり・・・。






「はぁい、ぼく♪お使いなんかより、お姉さんと楽しいことしな〜い?」
「ごめんね、おねえさん。とーちゃんがおなかすきすぎてたおれちゃったらたいへんだから!」




乱菊さん・・・、アンタが言うと変な意味にしか聞こえないから・・。






「お使いとは偉いな!お前のような息子をもって父親は幸せ者だな!勿体ないくらいにな!」




ルキア・・・、てめぇは絶対俺がここにいることわかって言ってるよな・・・。






「あわわ!」
「!!」






一通りみんなに話しかけられて、もう一度スキップで掛けだそうとした一路・・・。
でもそれは叶わなくて、目の前のあった石に躓いてそのまま前に倒れていく。
弁当を抱えた手はそのままにしてたもんだから、右の頬を思いっきり擦っただろう・・。






俺を始め、ルキア達もどうするべきか悩んでいるようで誰も動かない。
どうする?出て行くべきか?
やっぱり、まだ一路1人では早すぎたのか?
誰もが同じことを考えているだろう中で、ゆっくりと立ち上がる一路・・・。
泣くか?さすがに泣いてたらもう出て行くしかないよな?






「いてて・・・。えへへ、しっぱいしっぱい。あるいていこうっと!」






立ち上がった一路は、弁当が入った袋の汚れを取るように軽く払ってから、自分の頬や足を払う。
そして、今度はゆっくりと歩き出す。
スキップの変わりに、きっと家を出る前に織姫と作ったんだろうデタラメなお弁当の歌を歌いながら。






「・・・・・・」






ついこないだまで歩けなかったコイツが、こうして歩いたりスキップしたり、言葉も日に日に増えて、いっちょ前に俺とまともに会話できるようになったりとか・・・。
そういう姿を父親として見てきたから、成長してるってのはわかってるつもりだったけど。
こうしてみると、本当にでかくなったなって思う。
嬉しい反面、ちょっとどこか寂しさも感じるような気もするけど、それでもやっぱり、我が子の成長は嬉しい。






「・・・俺も、成長するか」






親として、俺はまだまだたから。
俺も一路に負けないように、一路が大きくなったときに恥ずかしくないように。






まずは心配して見守るだけじゃなくて、心配しながらでも子どもを信じるところから。














「・・・・・・・」






相変わらず秒針の音は耳につき、時間は遅く感じるけど。
でも、さっきまでのようないてもたってもいられないような不安はない。






ピンポーン






「とーちゃん!じーちゃん!」
「一路ぉぉぉ!!」
「おべんともってきたよー!!」
「おお!すごいな一路ぉぉ!1人で来たのかぁぁ!?じいちゃんは嬉しいぞぉぉ!!」
「えへへ。あ、とーちゃん!おべんと!」
「おう、ありがとな。一路も一緒に食べるか」
「うんっ」










一路が持ってきてくれた弁当は、転んだせいか中身はぐちゃぐちゃになってて。
でもそれでも、ごめんな、織姫。
俺、これまでの人生の中で、今日一路が持ってきてくれた弁当が一番美味かった。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ