*過去拍手話A
□それはきっと、しあわせな結末
1ページ/1ページ
「黒崎くん、あとちょっとだから頑張ろうね!」
「・・・おう」
俺と井上。
2人で黙々と頑張っているのは出席日数のヤバい授業の補習課題でも、
場所も時間も関係なく出る虚退治でもなく・・・。
「あ、こっちにもあったよ!豆は隠れるの上手だねぇ〜」
「・・・・・・・」
節分豆撒き後の、豆拾い・・・。
*それはきっと、しあわせな結末
イベントごとには人一倍張り切る俺の家族。
百歩譲ってクリスマスや誕生日なんかはいいとして、さすがに高校生にもなって節分なんかやってらんねぇよな。
っていう俺の愚痴聞いた隣の井上の目がきらきらしてたら、
このまま二人で放課後デートなるものをしようと目論んでいた俺でも、予定を変更せざるおえないだろ?
「あ〜!でも、本当に楽しかった!」
「そりゃ、良かった」
「遊子ちゃんも夏梨ちゃんもぐっすりだね」
「はしゃぎ疲れたんだろ」
「ふふ、可愛いね」
楽しかったのは井上だけではないようで、井上が来たことで家族のテンションはいつもの5倍増。
すっかりはしゃぎ疲れた妹たちは、今ソファでぐっすり・・・何故かそこにヒゲダルマも混ざってるけど・・。
「2人とも、優しい子だよね」
井上が優しく見つめる先には遊子の腕の中にある一冊の絵本。
その名も、「泣いた赤鬼」。
井上が遊子の夏梨に情感たっぷりに読んでやってたときには遊子は号泣、夏梨もいつもはあまり見せない表情を見せてたな。
そう言う井上の目も、少し赤いのを知っている。
「小さい頃はね、泣いてる赤鬼が可哀想で青鬼のしたことは間違ってる、他にも方法があったはずなのにって思ってた。そしたらお兄ちゃんがね、鬼に瘤を取られるだよって言ったの」
「なんだそれ、宇宙語か?」
「もうっ」
『鬼に瘤を取られる』
一見損害をうけたようで、実はかえって利益になることの例え。
「お兄ちゃんはちょっと使い方は違うけどって笑ってたけど、今ならわかる気がする」
赤鬼にとっては悲しいことでも、青鬼にとっては幸せな選択だったのかもしれないから。
だから青鬼にとっては間違いなんかじゃなくて幸せな選択だったのかも。
そう言って優しく笑う井上。
こういうとき同じ兄貴として、1人の男としても昊さんは本当にすげぇと思う。
自分との差を痛感してしちまうけど、やっぱり聞きたくなる続きのこと。
「井上なら、どうするんだ?」
「え?」
「他に方法があったはずって言ってたろ?飴色鬼ならどうすんだ?」
「あはは、飴色鬼って可愛いねっ。あたしならね、赤鬼を1人で泣かせちゃうのは嫌だから赤鬼と一緒に残るの。それで、人に受け入れてもらえるように一緒に努力するの!」
もう、本当にさ。
自分が去ったあとの赤鬼のことまで心配するなんて、優しい井上らしすぎて。
自分のちっぽけさを感じるよりも、愛しさが募る。
「黒崎くんは?」
「俺?」
「オレンジ鬼ならどうするの?」
「そうだな・・・、俺なら護るな。人からも、他の鬼からも護るよ」
「ふふ、黒崎くんらしいねっ」
今は節分豆撒き後の豆拾い中なんていう、マヌケな状況だけど。
俺としては日頃言えない気持ちを込めて『護る』なんて言ってみたわけで。
なぁ、豆を追いかけながら「オレンジ鬼に護られる鬼は幸せだね!」なんてちょっと羨ましそうな声で呟く飴色鬼さんよ。
「あ、最後の一粒をテーブルの下で発見しました!」
「井上」
「へ?って、黒崎くん!接近戦っ・・・」
ちゅ
「く、黒崎くん・・・」
「お前な」
「え?」
「オレンジ鬼が護る相手はこの先ずっと飴色鬼限定だっつの」
「へ?」
「羨ましそうに言ってんじゃねぇよ。少しは自惚れろ」
そりゃ、まだ高校生だし、この先まだまだヒゲダルマの脛をかじってく半人前な俺だけど。
それでもお前を手離す気なんて更々ねぇ。
まだ将来なんて見えねぇけど、これだけは変わらねぇっつーか、変える気もねぇから。
覚悟しろよ?
「・・・来年のことを言ったら、鬼に笑われちゃうよ」
「だから宇宙語を喋るなって。大丈夫だ、そしたら俺が鬼以上に笑ってやる」
「でも、今度のテスト範囲だよ、これ」
「げっ」
オレンジ鬼と、飴色鬼。
それはきっと、しあわせな結末。
*2015.02.08
「(ねぇ、夏梨ちゃん、オレンジ鬼と飴色鬼っていうより・・・)」
「(2人とも顔真っ赤だから赤鬼だな)」
「(一護の奴、家の中でイチャイチャしおって!エロ鬼は外ー!!)」
「(うるさい、ヒゲ!)」
「(ぶはぁっ)」