*過去拍手話A

□OVER DRIVE〜1年後の10月31日の1日前〜
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結婚式の前日にようやく重なった休み。
いつも寂しいばっかりさせてるアイツに「どこに行きたい?」「車出すから遠出でもいいぞ?」って問いかける。






それでも帰ってきたのは、「黒崎くんと手を繋いで空座町を歩きたい」だった。






そんなアイツを、一生大事にしていこうと思った。












*OVER DRIVE〜1年後の10月31日の1日前〜



















いつもパトロールする町の中。
相棒はいつもの黒いバイクではなく愛しい人。「うわぁ!懐しいね!」






やってきたのは、あの日、尸魂界に行くかどうか悩んでいた俺の背中を井上が押してくれた階段。
思い出の階段に座って、何やら眉間に皺を寄せている井上。
よくよく見ると、どうも俺の真似をしているらしい様子にひっそりと笑う。






結婚式を明日に控えた今日は、10月30日。
明日であのハロウィンプロポーズから丁度一年になる。





本当なら、もっと早くに式を挙げる予定だった。
井上はお袋の命日に挙げたいと思ってくれつつも、家族の時間を奪ってしまうとなかなか気にして言えなかったようだけど・・・。
俺としては昊さんの命日とか、井上の誕生日とか、付き合い始めた記念日とか、井上の名前にちなんで七夕とか・・・。
色々考えてたけど、尽く事件やトラブルが重なり、結局はあのプロポーズから一年が経ってしまった。






それでも、文句一つ言わないで俺の隣で幸せそうに綺麗な笑顔を見せてくれる井上には、もう本当頭が上がらない。






「あの時も黒崎くんのモノマネしたなぁ」
「ああ、あのちっとも似てねぇやつだろ?」
「似てるよ〜!だってあの頃からあたし黒崎くんマニアだよ?」
「マニアって怪しい響きだな」
「今やったらもっと似てるかも!ちょっと見ててね!」






そう言って、へにゃっとした笑顔から再び刻まれる眉間の皺。
似てねぇよってツッコミ入れて、井上がむくれて、次行くぞって手を引いてやると、今更照れて嬉しそうに笑う。
ああ、もう本当に癒される・・・。





「次はどこ行くんだ?」
「えっとね、じゃあいつも行ってた公園!」
「了解」
「えへへ、久しぶりにブランコ乗っちゃおっと!」






山積みの仕事が片付いて、結婚式前日にしてようやく職場からもらえた貴重な休み。
彼氏彼女から夫婦と関係が変わるだけだけど、彼氏彼女としては最後の日だから、何か特別なこととか、特別なところに行ったりとか考えてたけど・・。




『黒崎くんとの思い出がいっぱいの空座町を手繋いで歩きたいな』




そんな井上の可愛いしリクエストで、こうして空座町を探索中。
クロサキ医院から始まり、中学に高校、さっきの階段や、浦原商店、2人で歩いた商店街に河原・・・。
いつも仕事で通る道なのに、何故だか自然と昔思い出して。
普段は井上の話を聞いていることの方が多い俺も不思議と口数が増えるくらい、楽しいんだこれが。






「おーい、黒崎くーん!!」






なんて、1人感慨に浸っていると妙に上の方から聞こえる井上の声。
って、おい。






「ブランコじゃなかったのか?」
「だって、ジャングルジムがおいでって呼んで」
「ねぇからな」
「・・・黒崎くん、ツッコミ上手くなったよね」






何故かちょっと悔しそうに口を尖らせる井上に笑いながら、足をかけて俺も登ってみる。
井上の隣に座って上を見上げてみると、意外と空が近かった。






「本当はね、お兄ちゃんに報告しようと思って」
「そっか」






隣の井上も、俺と同じように空を見上げていて、その横顔がすげぇ綺麗だと思った。






「じゃあ、俺もお袋に報告だな」
「黒崎くんも?」
「おう」
「じゃあ、一緒に報告だね」
「だな」






長い時間を経て、ようやく明日、俺達は家族になる。
だからって、今までと何ら変わることはない。
それから俺の井上への気持ちも、護りたいと思う気持ちも、変わらない。
むしろこっちは、これからも膨らむ一方かもな。






お袋、昊さん。
まだまだ未熟な俺たちだけど、見守ってくれるよな?






だから、なぁ。






「・・・織姫」
「え・・・」
「幸せに、なろうな」
「・・・・・」
「おい、返事は」
「・・・う゛〜〜〜〜」
「こら」
「・・・だって、もう幸せだもん。これ以上どう幸せになるの?」
「よし、覚悟してろよ?嫌と言うほど幸せにしてやる」
「じゃあ、あたしも黒崎くんを幸せにする!」
「勝負だな」
「臨むところです」






ああ、俺ももう幸せだ。












「あ〜あ、明日でついにアメヒメさんがクロワリさんのものになるのかぁ。まぁ、今時の若者みたいにデキ婚じゃないだけ許してあげるか」
「でも、アメヒメさん似の子どもならオレ見たいかも。絶対可愛がるよ」
「結婚までかなり時間がかかったクロワリさんだよ?赤ちゃんなんて先の先のそのまた先くらいじゃない?」
「じゃあ、明日ハロウィンだし、トリックオアトリートオアベイビー?」
「プロポーズもハロウィンに肖ったんだから丁度いいんじゃない?」
「丁度いい丁度いい」










「よくねぇよ!!」
「「「あれ?いたのクロワリさん」」」
「お前ら絶対気付いてただろっつの!!つか、どこから聞いてやがった!!」
「人聞きが悪いなぁ。そんなに暇じゃないから」
「やだなぁクロワリさん、オレたちさすがに節度はあるよ?」
「そうそう、俺たちはクロワリさんみたいに人前でアメヒメさん泣かしちゃうような甘い台詞は吐けないなぁ〜」
「お前ら、今日という今日は逮捕」
「「「されないから」」」
「先言うなっ!!」











「おかあさん、お兄ちゃん。いま、とっても幸せだよ」















*2014.11.05

明日からも変わらないアナタが隣にいる日々を、大切にしていこう。


 

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