*過去拍手話A

□FIREWORKISS
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花火がしたいなって、思ったの。
何気なく見てたテレビから見えたのは、太陽みたいにきれいな花火。
もちろん、こういう花火は先週の花火大会で大好きな人と一緒に見たけれど、最近欲張りなあたしはそれだけじゃ足りなくって。
あの目の前でパチパチときれいに光る手持ち花火が無性にやりたくなった。
大好きな人が思いっきり甘やかしてくれるから、ついつい欲張りになっちゃう今日この頃、だめだなぁっていうのはわかってはいるんだけど。

大きな幸せも大切だけど、目の前の小さな幸せも大切にしなきゃだよね!なんて、我ながら良い言い訳を考えて花火を求めて家を出る。













*FIREWORKISS













当然だけど、当たりは真っ暗で人もいない。
きっとこんな風に一人で出歩いてることを知られたら怒られちゃうだろうけど、毎日21時にしている電話はさっき終わったばっかりだし、これから徹夜で大学の課題をやっつけるって言ってたしからきっと大丈夫。
何より連日連夜の虚退治で疲れてるから、こんなあたしの気まぐれに付き合わせちゃいけないよね。

そんなことを考えながらなんとなく早足でコンビニへ向かって、無事に花火を手に入れてどこでやろうかな?って視線を巡らせていたところで見つけた、大好きな色。




「・・・あれ?黒崎くん?」
「・・・・・」
「どうしたの?」
「・・・・・」
「もしかしてまた虚・・・」
「この、馬鹿!」
「へ!?」
「『どうしたの?』じゃねえよ!」




黒い死覇装を着て、何故か息を切らした黒崎くんに、思いっきり怒られた。
あたしと電話を終えたあと、徹夜覚悟で課題に取りかかろうとしたら案の定、代行証が鳴ってご出動。
あたしの家の近くだったから帰りに寄ってくれたんだけど、それは能天気なあたしが花火を求めてコンビニに向かっている真っ最中で、慌てて追いかけて来てくれたんだって。

正直に理由を話すともっと怒られちゃった。
「何で俺を誘わないんだ」「遠慮ばっかりするな」って、黒崎くんはあたしを甘やかしすぎちゃだめだよ。
だって、怒られてシュンとしているあたしの手を握って、「河原でやるぞ」って歩き出しちゃうんだもん。
そんな黒崎くんの言葉にすぐに元気を取り戻すあたしも、甘えてばっかりでだめだよねって思いながら口元が緩むのを止められないあたしはもっとだめ。









「黒崎くんは、どの花火が好き?」




あたしの家から一番近い河原で、黒崎くんと二人だけの花火大会。
あたしが買った花火は一番大きいファミリーサイズ。
「また欲張って買ったな」って、ちょっとびっくりして呆れながら、それでも笑ってくれる黒崎くん。
いろんな火花の散り方や、きれいな色にうっとりしながら、ふと気になったことを聞いてみた。




そしたら少し考え込んだ黒崎くんから出てきた答えは「線香花火」だったから、思わず「へ?」って間抜けな返事。
だって、黒崎くんはどっちかというとロケット花火とかススキ花火とか、もっと・・・元気っていうか勢いのあるものの方が好きだと思ってたから。
「ロマンチストだね」って言うと、「なんでだよ」って痛くないデコピンをもらっちゃった。




「きれいだね」
「そうだな」




一本一本火をつけるたびにそう言うあたしに、黒崎くんは必ず返事をしてくれる。
先週の花火大会ももちろんきれいだったけど、それよりもはるかに小さい目の前の花火の方がきれい見えるのはやっぱり黒崎くんと一緒だからかな?
だったらあたし・・・。






「こっちの方が好きだなぁ」
「ん?」
「あのね、先週の花火大会も好きだけど、こうやって黒崎くんと二人だけで花火が出来るほうがいいなぁって」
「・・・・・・」
「黒崎くん?」
「アホか」
「あ、ひどい」




思わず黒崎くんの顔を覗き込もうとしたら、「見んな」って頭を逆方向へ押し遣られちゃった。
うぅ、痛いっす・・・。




「恥ずかしいこと言ってんじゃねぇよ」
「だって・・・、本当のことだもん」
「あっそ」




なんて、言い方は素っ気ないけどね?
宥めるみたいにあたしの頭をポンポンってしてくれる手はとっても優しい。
ああ、しあわせだなぁ。





でもね?ちょっと不安になるの。
だって、花火が綺麗なのは一瞬で消えてしまうからって言うでしょ?
他にも、蝉とか、蛍とか、儚いから美しさが際立つんだって。
いつか黒崎くんと離れちゃうときが来る前に、きれいな思い出として鮮やかに残してもらえるように早く離れたほうがいいのかなって思うことがある。




「どうした?」




急に黙り込んだあたしの上から、不思議そうな黒崎くんの声が聞こえる。
ああ、どうしよう。
心配なんてかけたくないのに、今顔をあげたらきっと泣いちゃうよ。




「井上?」
「あ、あのね・・・、黒崎くん」
「ん?」
「あたし、離れたほうが、いいのかな?」
「は?離れる?」
「うん、黒崎くんから」
「はぁ?」




どうしよう、言葉にしたらもっと不安になってきた・・・。
それに、突然こんなこと言い出して黒崎くん絶対怒ってるよね・・。






「おいこら、井上」






俯いて涙を堪えるしかないあたしに降ってきたのは、怒ってるようで怒ってない黒崎くんがあたしを呼ぶ声。
それから、大きくてあったかい手でぐっと顔を上げさせられた。






「井上」
「・・・・・・」
「お前がなんでいきなり、そんなこと言い出したのか言ってみろ」
「・・・・・・」
「ゆっくりでいいから」






優しく微笑む黒崎くんの表情に強張っていた体から力が抜けて、それからさっきまであたしが考えてたことをポツリポツリと話し出す。
黒崎くんは、あたしが言葉に詰まっても何も言わずに黙って聞いてくれて、全部話し終るとあたしの頬にそっと手が触れて・・・。









「アホか」
「へ!?」









さっきよりも盛大に呆れを込めた顔と声で言われて、頬に触れる手はギュッとほっぺたを摘まんだ・・・って、なんで!?




「いたいれす・・・」
「そりゃそうだろうな。つねってんだし」
「ふぇ?」
「お前がアホなこと言うからだろ?」
「らって・・・」
「だってじゃねぇよ。つか、俺と別れること前提の話しだっつーのがムカつくな」
「え!?」




どうしようどうしよう・・・。黒崎くんを怒らせちゃったよ。
そう考えるだけで、さっきまで一生懸命堪えてた涙がじわっと溢れそうになる。




「あのなぁ、お前に言っときたいことが二つあるからよく聞けよ?」





そう言ってあたしをぎゅーっと抱きしめる黒崎くん。
言っときたいこと・・・なんだろう?ひょっとして、やっぱり離れようってことかな?なんて考えてしまったことが、あたしの体が一瞬強張ったことでわかったのか、頭に拳骨一つ。




「まず、何でお前が俺といずれ別れる前提で話を進めてんのかがわかんねぇけど」
「・・・・・」
「言っとくけど俺、お前を手放す気なんて更々ねぇから」
「・・・え?」
「当たり前だろ?」
「え?ほ、ほんと・・・?」
「つーか、そこを疑われるってちょっと心外なんだけど」
「え!?ごごごごめん!!」




拗ねたような声に慌てて顔を上げて謝ると、そこには声とは裏腹に穏やかな顔で笑ってくれる黒崎くん。それからもう一度、あたしをぎゅっと抱きしめる。




「それから、さっきの一瞬だからどうのこうのってやつだけど、それは人それぞれなんじゃないか?」
「え?そうかな・・・」




だって花火を好きな人はいてもあの大きな音がずっと続いたらみんな困っちゃうし、
蝉だって一年中鳴いてたらきっと迷惑になるし、
蛍だって真っ暗闇の中で光るから輝いて見えるんじゃないのかな?




「そりゃそうかもしれねぇけど。でも、世の中なんでもそういうもんばっかりじゃねぇだろ?」
「そうかな?」
「よし、わかった」
「え?」
「井上、目閉じろ」
「目?」
「いいから」
「う、うん」




言われたとおりに目を閉じて待っていると、あたしを抱きしめてた片方の手がそっとあがってゆっくりと頭を撫でてくれる。
それから・・・。









ちゅ









「・・・・へ?」









いくら鈍いあたしでもわかる。
今、キス・・・されたよね?









突然のことに驚いて目の前の顔を見上げると、勝気に笑う黒崎くん。









「これならどうだ?」
「・・・・・・」
「これも、一瞬の方が良かったか?」
「・・・やだ。長いのが良い」
「・・・・・・」









一瞬、黒崎くんが息を呑むのがわかったけど、どうしたの?って思った瞬間にはもう何も考えられなくなってた。









花火から始まった話なのに、残ってる花火のことなんか忘れて、暗闇の中、長い長いキスをもらいました。












*2014.08.19
 バカップルこそ夏の風物詩!


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