†【近藤+etc】

□災難
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チュンチュン、と雀の鳴き声が響き渡り、日の差す襖の向こうは、すっかり朝の訪れを告げている。

『…やっと、朝か…』

目の下に濃い隈をこさえた土方が天井を仰ぎ、疲れきった声で呟いた。

結局一晩中、抱き枕にされ続けた。
体の節々がピキピキと痛む。

その土方の腹の上では、近藤が乗っかりいまだに安眠を貪っている。

土方は、プチ…と頭のどこかが切れる音を聞いた。

『この、いい加減にどけやがれ!!!』

上半身を勢いよく起こすと、ゴロン、と近藤の体が転がり落ちた。だが一向に目覚める気配はなさそうだ。
何事か暢気に寝言を呟いている。

『テメ…起きやがれっ』

土方は思わず、近藤の両頬を思いっきりムギュ〜っと引っ張った。

『ん〜…』

口をむにゃむにゃと動かしながら、ようやく近藤が僅かに反応を示した。
だが次の瞬間、近藤はまたも土方にしがみついてきた。

『ぐぁ…っ、またかよっ!ふざけんなよっ』

渾身の力で引き剥がそうとする土方に、近藤がふいに顔を近づけてきた。

『…?』
『お妙さぁん…チュウ』
『!!!!!』

唇をすぼめて迫り来る近藤に、土方は最大の危機感と、全身が鳥肌になるのを感じた。

『だから俺はお妙じゃねえってのっ!!』

近藤の顔を両手で全力で押さえつけながら、土方が叫んだ。
その時だった。

『副長、失礼します』

声と共に、襖が開けられた。

『朝早くにすみません。今日の会議の事でご相談が…』

ペコリと下げた顔を土方に向けた山崎が、瞬時に固まりついた。

『………』

一つの布団で、絡み合った男が二人。
しかも、おはようのチュウの真っ最中…らしい。

土方がゴクリ、と息を飲む。

『…お、おい。山崎…これは…その』

山崎の凍りついた視線に、土方は青ざめた。

『や、山崎…違うんだ』

土方がなにか言う前に、山崎は視線を外しながら静かに後退った。

『何も見てません』
『は?』
『俺は何も見ませんでした。この事は、誰にも他言しませんから安心してください』

山崎は、そのまま襖を閉めた。

『ちょ…、違うんだってぇぇぇぇっっ!!!!』

土方の悲痛な叫び声が、虚しく屯所中に響き渡った。




――その後、局中法度には新たに、【局長に怪談話を聞かせる者、切腹】と加わったとか…。
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