†【近藤×土方】
□そして、夜はこれから。
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喧嘩をした。
毎日カレンダーを眺め、気がつけば指折り数えていてしまってるくらい楽しみにしていた筈の旅行だったのに。
本当に些細なことだった。
『お。やっぱ女性の浴衣って良いもんだよなぁ』
旅館に着いて、部屋に向かう途中にすれ違った女性二人組を見た近藤が何気なく発した言葉。
きっとそこに他意はなかったと思う。
元来、近藤の嗜好は女性に向いていたのだ。知り合った頃からずっと、常に彼の恋話はうんざりするほど聞かされてきたし、部屋に積まれた大量のギャルゲーの処分で揉めたことだってあった。
土方と恋人関係になったからといって、近藤の嗜好が男に向いたわけでない。好みの女がいれば、思わず振り向くのは同じ男として理解出来る。
そう、頭では分かっていた。
『…そんなに女がいいんなら、口説いてくればいいんじゃねぇの?』
気がつけば口から嫌味が飛び出していた。
不機嫌さを帯びた声色に、近藤はキョトンとした顔を土方に向けた。
『…え、トシ?どうかしたの…』
土方はピクリと眉間に皺を寄せた。鈍感な近藤に、苛つきが増す。
ムッとした表情を残したまま、『ちょっ…トシ!?』と呼ぶ声も無視して、無言で背を向けて部屋に向かい歩き出した。
部屋に入ってからも、土方は窓際の椅子に座って外を眺めたまま、一言も口を聞かなかった。
なぜ土方が突然機嫌を悪くしたのかは分からなくても、自分が理由だということは何となくは察しているのだろう。
近藤が浴衣に着替えながら、ちらりとこちらの様子を窺ってるのが気配で分かる。
『…なぁ、トシは浴衣に着替えねぇの?』
『…風呂入ってから』
ボソリと面倒臭そうに返された返事に、近藤は『あ…う、うん』と頷いた。
近藤は困ったようにガリガリと頭を掻いて、キョロキョロとどうしたもんかと迷った末に、とりあえず座布団に腰を下ろした。
『お、茶菓子があるぞ。』
誰に言っているのか、近藤は言いながら卓上に置かれた温泉饅頭を手に取って、袋をほどいて口に頬張った。
モグモグと口を動かしながら、またちらりと土方を見る。
『お前も食うか?』
勧めてみるが、土方は相変わらず窓を見ながら『いらね』と首を振った。
近藤は『そ…そうか』と言って、黙ってお茶を啜った。
『………』
『………』
近藤のお茶を啜る音と、窓の外から漏れてくる木々のざわめく音だけが静かな部屋に響く。
こんな気まずい空気は初めてだ。
沈黙が息苦しいなんてことは今までなかった。
ふいに土方が立ち上がった。近藤が思わずビクリとする。
『ど、どした?』
『風呂行ってくる』
土方が備え付けのタオルと、着替えの浴衣を手に取ると、近藤も慌てて湯呑みを置くと立ち上がった。
『お、俺も行こうかなっ。露天風呂あるんだよな』
近藤はへらりと笑ってみるが、その顔は少しひきつっていた。