†【近藤×土方】

□Happy Valentine's Day
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廊下から足音がするたびに、開けられた障子から顔をひょいと覗かせては、足音の主が近藤ではないのを確認しては小さく溜め息を吐く。

『遅ぇな、近藤さん』

手持ち無沙汰で、胸元のポケットから煙草を一本取りだし口にくわえ火を付ける。

朝から本庁での会議に出席している近藤は昼過ぎになっても帰らないのだ。
予算申請で長引いてるのかも知れない。
土方はそわそわと落ち着かない指先で、しきりに畳をトントンと叩いている。

おもむろに、すぐ横に置かれたブルーの小さな紙袋に目をやり、僅かに目元を弛ませた。

今日はバレンタインデイだ。

昨年、まるでイベント事に興味のない土方は、『男同士でチョコのやり取りもねぇだろう』とスルーする構えでいたのに対し、イベント大好き人間の近藤は恥ずかしげもなく、女の子に混じって買ったであろう土方へのチョコをしっかり用意していた。しかも思いきりハート型の。

嬉しそうににこやかにチョコを渡された土方はそこで内心、(ヤバイ…)と思った。

案の定、土方がチョコを用意していなかったらしいと悟るや、近藤の顔は見る間にショックを受けて、項垂れた挙げ句しまいには拗ねてその日1日、口を利いて貰えなかった。

知らない。俺は悪くない。いい年した男が、女に混じってハートやなんだの装飾で彩られた店でチョコなんか買えるか。
そう自分に言い訳をしてみたが、自分からの本命チョコを心の底から期待してくれていたらしい近藤に、悪いことをしたなと土方もチクチクと後から胸が痛んだのだった。

近藤はちゃんと自分へのチョコを買ってくれていたのに。お洒落な店とか可愛らしい店が大の苦手だというのに。

『今年は大丈夫だぜ、近藤さん』

だから、昨年の二の舞は演じない。
恥も外聞も捨てて、昨日、江戸でも人気の菓子店で買ってきた。

キャッキャと、男にあげるチョコに群がる女の集団に混じり、『なに?コイツ』『男のくせにチョコ買ってる』『彼女いなくて、自分で買ってんじゃないの?ダッサ〜』『もしかしてホモじゃん?』だとかコソコソ囁く声にピクピクとこめかみに血管を浮かせながらも、チョコを入手してきた。
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