†【近藤×土方】

□素直になれなくて
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隊士らの賑やかな話し声が響く昼時の食堂。

『お、この煮物すげぇ旨いっ』

定食のおかずを口に運びながら近藤が大袈裟なほど感動を顔に表すと、土方は思わずフッと柔らかな笑みを浮かべた。

見ているだけで飽きない。
たかだか定食の飯で、一喜一憂する彼のコロコロと変化する豊かな表情を見ているのは好きだ。

『ただの煮物だろ?』
『いやいや、マジで旨いんだって。食ってみろよ、ほら、あーん』

近藤が箸で煮物の芋を差し出すのに釣られて、口を開けようとた土方がハッとする。
周囲に目をやれば、2人のやり取りを見ていた隊士らが慌てて視線を反らす。
土方の頬にカッと朱色が浮かぶ。

『ばっ…、な、なにやらせんだよ』
『へ?なに恥ずかしがってんの。変なヤツだなぁ』
『変じゃねぇ、恥ずかしいに決まってんだろっ』

近藤は『そうかぁ?』と首を傾げながら不思議そうな顔をして、差し出していた芋を自分の口に放り込んだ。

近藤はたまにこんな風に、恥ずかしげもなくするのだ。

どうしてこの人はこうもいつも何事にも照れがなく自然体なのか。
自分の感情に、どこまでも素直なのだ。

自分が気にしすぎなのか?いや、絶対違う。だって、あーんはないだろ、あーんは。恥ずかしすぎだろ!
土方はマヨ丼をかっこみながらぶつぶつと呟く。

『近藤さん、俺にも味見させてくだせぃ』

近藤の隣にいつの間にか座っていた沖田が、顔を覗きこむ。

『ん?いーよ。はい、あーん』
『……!』

土方は思わず目を丸くした。
なんのてらいもなく、差し出された煮物を沖田がぱくん、と口に入れた。

近藤の箸で。近藤の箸で。近藤の箸で!

『ホントだ、うめぇや』
『だろ?』

口を唖然とさせている土方に、沖田がしたり顔でニヤリと笑った。

『……っ』
『あれ、トシどうしたの?なんか怒ってない?』
『怒ってねぇっっ』

近藤がまたも『変なヤツだなぁ…』と首を捻る。

くそ、羨ましいなんて思ってねぇぞ。いい年した男同士でそんなマネ出来るか。

けれどマヨ丼をかっこみながら土方はひそかに心の中で思っていた。






近藤の百分の一でもいい。
素直さが欲しい…。



(完)

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