†【近藤+etc】
□女はただ追っかけるだけじゃダメなんだって。
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『あー…パフェ食いてぇ…』
ぼんやりと公園のベンチに腰掛けながら呟く。
糖分不足で、もはや意識も途絶えそうな銀髪頭は、もう一度懐から出した財布を覗き見て、がっくしと項垂れた。
『あそこで止めてればなぁ…あのハゲオヤジ…なぁにがあの台は絶対に出るだ。話を信じた俺のいたいけな心と財布はどうしてくれんだよ』
ぶつぶつと文句を垂れながらふと足下に視線を落として、銀時はそのまま釘付けになった。
すぐ足の横に、黒い皮財布が落ちている。
その不自然な分厚さからして、中身は恐らく空ではない。
財布が、自分を見つめている…ような気がした。
ゴクリ、と喉が鳴る。
素早く周りを見回し、もう一度財布に目をやる。
『あ、あれ〜?こんな所に財布が落ちてる〜。大変だなぁ。お〜い、おまわりさ〜ん、お財布が落ちてますよ〜』
口に手を添えながら、棒読みで誰ともなしに小さな小さーな声で叫ぶ。
勿論、誰も来るわけはない。
『あれ〜?いないな〜。よし仕方ない、善良なお兄さんが預かってあげようかなぁ』
言いながら、口端を歪めて財布に手を伸ばした時だった。
好き放題飛び散ってる銀髪頭に、ゴンッと衝撃が落ちて、思わず体ごと地面にめり込みそうになる。
『痛ぇじゃんっ!なにすんのー!!』
涙目で頭を押さえながら、銀時は殴り付けた張本人をキッと見上げた。
『何が預かるだ。パクるの間違いだろうが』
近藤が拳を握りしめながら見下ろしていた。
すぐさま立ち上がり、銀時が抗議する。
『ちょっ、なにしてくれてんのこのゴリラ。警察官が善良な一般市民に暴力振るっていいと思ってんですかー?!』
『なーにが善良な一般市民だ。たった今財布盗もうとしてた奴が』
言いながら財布を拾い上げ、近藤は呆れた顔をして片眉を上げた。
『ぬ、盗もうとなんかしてねぇよっ。こ、これはだな、懐に大事にしまってだな、ネコババされないようにだなぁ…』
『いやいや、お前がネコババする気だったろ。そのままチョコレートパフェ食いに行くつもりだったろ』
『えっ、なんで分かるの?』
『やっぱりするつもりだったんじゃねぇかっ!』
ガツンッと再び近藤の拳が銀髪頭に下った。
『痛ぇっ!ちょっと、おまわりさーんっ!ここで凶暴ゴリラが一般市民に暴力を振るってますよーっ!!早く猟友会を呼ん…』
言い終わる前に、三度鉄拳が下り、プシューっと煙を頭から上げながら銀時は地面に沈んだ。
コブだらけの頭を撫でながら、ジロリと涙目で近藤を見上げて睨む。
『八つ当たりは見苦しいですよ、モテないゴリラ君』
『だ、誰が八つ当たりだっ』
睨み付けるが、銀時が顔を指差すと、う…と口篭った。
近藤の顔は、見事に青痣だらけだった。
先ほど偶然に街中でお妙を見かけ、名前を叫びながらダッシュで駆け寄っていったら返り討ちに遭ったのだ。
『こ、これは…恥ずかしがり屋なお妙さんの愛情隠しでだなぁ…』
『おーいっ、どこまでポジティブなんだこのゴリラは。しかもポジティブの方向性間違ってるし』
だが、ふと銀時は思いついたかのように、ニヤリと笑みを浮かべた。
ちょいちょい、と手をこまねくと、近藤は怪訝な顔をしながらも、しゃがみこんで銀時に耳を寄せた。
『女はただ追っかけるだけじゃダメなんだって。いつもとは違うパターンで攻めねぇと』
『違うパターン…?』
近藤が眉間に皺を寄せて首を捻る。
銀時はわざとらしく溜め息をはぁぁ〜っと吐き出した。
『だからモテないんだテメェは』
『何をぉっ!?失礼だな貴様!』
立ち上がろうとする近藤の肩を押さえつける。
『まぁまぁ。ここは経験豊富な銀さんに任せなさいって。悪いようにはしないから』
『……お、おう』
自信ありげな笑みに近藤が素直に頷くと、銀時は耳元でゴニョゴニョと話始めた。
『つまりだな、いつものパターンで慣れきってる女にはだなぁ…』
『うんうん…なにぃっ!そんなことしていいのか!?』
こうした暫くの間、男同士の作戦会議は続けられた。